32 / 45

空っぽの夜

 夜が巡る。夜が巡る。無為な夜が巡る。  はじめの二日は寝て過ごした。  次の一日は考えた。  その夜からは、動いた。男の腕におさまるための行為を。 「こんばんは。レオです。よろしくお願いします」  仮住まいのホテルの、別の部屋。こんこん、とノックして部屋のドアの前でにこっと笑う。  ホテルだけを指定して、客に部屋を取ってもらった。別に俺がここに仮住まいしているなどとは思わないだろう。  自分の取っている部屋に入れる気はなかった。一応、鞄にはここまで体を売ってきて得た金がたっぷり入っているのだ。  俺にそれなりの金額を払うような客だ。手癖の悪いやつに当たる可能性は低いだろうけど、ゼロじゃない。念には念が必要だ。金がなくなれば逃避行だってできなくなってしまうから。 「今日平日だけど、学校休み? それとも一回おうちに帰ってきた?」  制服なんて持ってこなかったから、俺は普通の私服で客の部屋を訪ねていた。取りに帰るつもりもないし。 「んー、もう冬休みなんです。最近はけっこー、冬休みって早いんですよ」  そんなことはあるはずがないが、適当なことを言っておいた。 「そうなんだ」  客はあからさまにがっかりしたようだ。 「制服のほうが良かったですか?」 「そうだねー、やっぱり高校生らしいじゃん」  まぁそっか。援交目的のオジサンとしては、いやらしくはあるが当然の願望だったはず。その点はサービスしてやれなくてちょっと申し訳なくなる。 「すみません。次回呼んでくれたら着てきますね」  なのでウィンクしておく。  次があるかはわからないけど。いや、多分無いだろうけど。 「夕ご飯食べてきた?」 「まだなんです」  招き入れられながら会話をする。俺の住んでいる部屋よりだいぶ広かった。ベッドもダブル以上かもしれない。 「そう、お腹空いたでしょ。なにか取ろうか。ルームサービスとか」 「えっいいんですか? えー、じゃあ甘えちゃっていいですか」  別に食事の金をケチりたいわけじゃなくて、食べている間に少しでもコイツの人となりを知りたいだけだ。『仕事』に役立つから。  ある意味、時間稼ぎ。いきなり本番に挑むよりちょっとは安心できる。

ともだちにシェアしよう!