45 / 45
夜が満ちる
「大丈夫か?」
今度、玲也は俺の体をさするだけなんて無粋な真似はしなかった。一緒に布団にくるまって、俺の体を包んでくれている。
まるで甘えるようだったけれど、いや、事実その通りだったけれど、俺は玲也の胸に頭を預けて目を閉じていた。
「だいじょーぶ」
たっぷりと満ちた胸で呟く。
「そっか。……なぁ、璃緒」
「なに」
短く聞くと、玲也としては当たり前であろう質問がやってきた。
「今日までなにしてたんだ。どこにいたんだ。心配したんだぞ」
「ああ……、そう、だよな」
こんな、単なる会話はもう友人同士のそれじゃない。
恋人同士の睦言だ。
コイツとこんな会話ができるようになったことを、もう不思議だとは思わなかった。むしろしっくりきた、と思ってしまう。
「起きたら説明するから……ちょっと……寝たい……」
説明する義務もあったし、むしろ聞いてほしいと思ったけれど、疲れが勝った。そしてこのゆったりと穏やかな空気をもう少し、全身で味わっていたい気持ちも。
「……まぁ、そうか」
玲也としてはすぐに聞きたかったのかもしれないけれど、俺の体が消耗したのはわかってくれているだろう。
俺の体を抱き寄せなおして、あまつさえ頭に触れてくれた。髪を撫でられる。
「おやすみ」
言われた言葉。
俺を夜に送り出してくれる言葉。
その言葉に送られて、俺はやっとたどり着けた場所の中で目をそっと閉じた。
もう空虚な夜なんてありはしない。
たっぷりとあたたかいものが詰まった、優しい闇に抱かれる夜。
俺を満たしてくれるそれを足りないなんて、もう思うものか。
(完)
ともだちにシェアしよう!