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夜が満ちる

「大丈夫か?」  今度、玲也は俺の体をさするだけなんて無粋な真似はしなかった。一緒に布団にくるまって、俺の体を包んでくれている。  まるで甘えるようだったけれど、いや、事実その通りだったけれど、俺は玲也の胸に頭を預けて目を閉じていた。 「だいじょーぶ」  たっぷりと満ちた胸で呟く。 「そっか。……なぁ、璃緒」 「なに」  短く聞くと、玲也としては当たり前であろう質問がやってきた。 「今日までなにしてたんだ。どこにいたんだ。心配したんだぞ」 「ああ……、そう、だよな」  こんな、単なる会話はもう友人同士のそれじゃない。  恋人同士の睦言だ。  コイツとこんな会話ができるようになったことを、もう不思議だとは思わなかった。むしろしっくりきた、と思ってしまう。 「起きたら説明するから……ちょっと……寝たい……」  説明する義務もあったし、むしろ聞いてほしいと思ったけれど、疲れが勝った。そしてこのゆったりと穏やかな空気をもう少し、全身で味わっていたい気持ちも。 「……まぁ、そうか」  玲也としてはすぐに聞きたかったのかもしれないけれど、俺の体が消耗したのはわかってくれているだろう。  俺の体を抱き寄せなおして、あまつさえ頭に触れてくれた。髪を撫でられる。 「おやすみ」  言われた言葉。  俺を夜に送り出してくれる言葉。  その言葉に送られて、俺はやっとたどり着けた場所の中で目をそっと閉じた。  もう空虚な夜なんてありはしない。  たっぷりとあたたかいものが詰まった、優しい闇に抱かれる夜。  俺を満たしてくれるそれを足りないなんて、もう思うものか。  (完)

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