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第1話
事の始まりはつい最近。
自分の部屋で授業中配られたプリントを番号順にまとめていたが、止めるホチキスがないことに気づく。
「マコー、おい、真子!!ー」
下の階にいる姉の真子に聞こえるように呼ぶ。
「なーにー?」
「ホチキスあるー?」
「棚の2段目ー」
真子の部屋に入りドアの近くにある棚を見る。
「2段目...と」
屈んで、2段目のカゴの中を探る。
ホチキスらしき形を手の中で感じ、取り出す。
これだ、と思った瞬間すぐ立ち上がろうとしたせいか、目眩を起こし倒れそうになった。
やばい、ほぼ反射で棚を掴んでしまい、固定をしていない棚はいとも簡単に倒れる。
「やっば......」
棚にあるカゴの中のもの、本、なんかいろいろ散乱している。
とりあえず元に戻そうとして、簡単な物からパパッと片付けていると最後に漫画らしきものを入れようとした時、1冊だけブックカバーがかかっているものがあった。
「なんだこれ?」
おそるおそるカバーを外し表紙が目に入った瞬間、顔を顰める。
タイトルは『イケナイなこと、シたい』
あいつはこんなのを読むのか、と逆に感心してしまう。
ホモ、BL?ってやつだよな?裏を見てみると、あらすじが書かれていた。
『ずっと一緒にいる幼馴染アラタと、部屋でゲームをしているとオナニーの話になり、そのままお互い抜き合うことに、ダメだってわかっているはずなのに止められらなくて...でもこの気持ちはなんだろう、と自分の気持ちに悩み始める主人公カナタ。
しかしある日、アラタからもうやめよう、と言われ!?』
数秒思考が止まったが、我に返る。
言われ!?じゃねーよ!!
なんだよオナニーの話ってゲームそのまましとけよ、お互い抜き合うとか狂ってるだろ。
ダメだって分かってたらすぐやめろよ、、悩むんじゃねえよ。
あらすじだけでツッコミ所が多すぎて疲れる。
真子ってこんなの読むのか...普通にキモイな。
しかも幼馴染モノというのもあり、ゾワッとしてしまう。自分の幼馴染、静の顔が浮かんでくる。
静は家が隣同士で昔はよく遊んだが、高校はそれぞれ目指すところが違ったので中学3年生以来話すことが少なくなっていった。
前のように連絡も頻繁に取っていない。
別に呼べばすぐに会えるけれど、部活も忙しそうだし...と考えているのは言い訳で特に話すこともないのでわざわざ呼び出すことは無い、と少し冷めた目で見てしまっていた。
高校に入ってから1度だけ家の前で会ったというのは1年の時だった。
その時の静は中学の時とは全く別人のように背が高くなり、イケメンとされる部類の人間に完全になっていた。
もちろん中学の時もモテていたんだろうけど、そんなこと気にせずに仲良くしていた。
目が合った静に、「那由太...」と呼ばれたのになんだか変わってしまった静に驚いて、困って、無視して家にそのまま入ってしまった。それ以来なんだか気まずいのである。
「いやいや」
パラパラと漫画を開く、男子が男子を押し倒している絵面は同性からすると少しキツい。
まだ、女子同士が仲良さそうにしている方が可愛いと思う。
そんなことを思っても漫画というのは、1度読んでみると意外と離れられないもので、しかもBLという未知の世界、主人公カナタや幼馴染アラタにツッコミを入れつつも案外話がしっかりしていて夢中になって読んでいた。
そのせいで、気づかなかったのだ。
「あんた、...それ」
姉がいつの間にか上がって来ていることに。
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簡単に言えば、半殺しにされた。
俺を見るなり掴みかかって光の速さでBL本を奪い取っていく。
「次こういうことあったら承知しないから」
鬼の形相でそう告げると部屋のドアを勢いよく閉めた。
というか、あんな所に仕舞ってるのが悪いだろ、しかしそんなことを言ったら次は本当に何をされるかわからない。
夕方になり、小腹が空いたころ、冷蔵庫を開けるとプリンがあった。
多分、母親が買ってきてくれたものだろう。
甘いものはいつも姉と喧嘩にならないように二つ買っておいてくれるのだ。
しかしそれも放ったらかしていれば、そのうち食べられてしまう。
食われる前に食え。
これが俺と姉の間での決まり事なのである。
「もーらいっ」
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「ねえお母さん私のプリン知らない?」
「知らないわよ...」
「お父さん私のプリンもしかして食べた?」
「いやー、食べてないぞ」
「もしかして...」
自分の部屋でゴロゴロしていると、階段を駆け上がって来る音が聞こえる、何事かと思い少し体を起こし音の方向を見るとすぐさま俺の部屋のドアが物凄い勢いで、開けられる。
「ちょっと、那由太!!」
「おい、勝手に開けんなって」
「私のプリン食べたでしょ!!!」
「は?」
冷蔵庫にあったプリンは、姉が自分で買ってきたものだったらしい。そんなことをされると、いつもの事だと思い母が買ってきたものだと勘違いしてしまうではないか。
名前書いとけよ、と反抗したら姉の怒りは更に爆発した。
「アンタ、もうただじゃおかないから」
「はい...すみません」
「これから私の言うこと聞いてもらうからね」
「いや…………プリン食べただ」
と言おうとしたら、バチン!とキツいビンタを食らった。
「...った.........ぃ」
「言うこと聞かなかったら、静ちゃんとかクラスの子とかにBL本熱心に読んでたのバラすからね?」
「いや、どうやって.........」
クラスの奴は無いとしても静は困る。
小狡い姉だ、こういう時女子はずるい。
男である俺が暴力を振れば、こいつはクソ野郎です、とばかりに被害者面をして助けを求めるくせに俺が弱い立場になれば一気に強気に出る。
しかし姉の脅しは冗談ではない。
小学生の時、玄関で耐えきれなくなりお漏らしをしたことを握られ脅され抵抗したら本当にバラされてしまった思い出がある。
それ以来、玄関で漏らしたって本当?と卒業まで新しく出来た友達に声をかけられるのは地獄だった。
ましてや、静、そして家にたまに来る佐久也 光太郎。
静とはこれ以上気まずくなりたくないし、光太郎にバレれば俺の高校生活が終わる。
しかしここで屈していいのか。
「そのこと言えば、真子も読んでるってバレるけどそれでもいいのかよ」
「あ?」
「はい、言うこと聞きます」
「分かればいいのよ」
ああなんて姉という生き物に弱いのだろう、全国の姉が怖いとは思わない、これは真子という存在が鬼なのだ。
そうして一旦部屋を出たかと思うとすぐ戻ってきてデカい紙袋を俺の部屋に置いた。
「これ読んで」
「なにこれ」
「BL漫画」
「なんで」
「私最近悩みがあるの」
悩みの内容といえば、まわりに話が合う友達がいないらしい。
それで精神をすり減らしているとか何とか、しかし友達にいきなりこれを勧めることは出来ない。そこでそこそこ姉の私に理解がある弟のお前がこの漫画を読んで私の消化不良が解消されれば周りのみんな、つまりお前も含めて優しくできる!そしたら私も幸せみんな幸せ!だから読め......要約するとこんな感じだ。
「いや押しつけじゃん」
「いいじゃん、全裸で外散歩しろとか言ってないし」
そういう問題じゃない、これを読んで何になるというのか、時間の無駄じゃんかよ。
「...わかったよ」
「え?いいの!?」
「今更なんだよ」
「じゃあ、明日までに全部読んでね!」
「は?、え?」
「私明後日から友達の家泊まりに行くから、だったら明日話し合いたいじゃない?わかった?絶対読んでね?」
と告げるとすぐに部屋を出ていってしまった。自分勝手すぎる...。
「ま、やることないしいいか」
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