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第2話
「おい、起きろって」
「ん?」
「那由太...」
「静………なんでここに」
「お前が心配だったからだよ」
ドキ...胸が高鳴る。
「...静、俺」
「なんだよ、那由太」
「好きだ」
「ああ俺も...」
目を閉じる。
あれ?なかなかキスが来ないと思い、目を開けると静の顔が魚の顔に変わっていて唇を思いっきり突き出していた。
「ギャーーーーーー」
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目を開けば魚の顔はなく、天井が見える。
「最悪」
なんて気持ち悪い夢を見たんだ。
やっぱり、昨日のせいだ。
昨日は漫画を読んだまま寝落ちをしてしまった。
頭が痛い、久しぶりに漫画を読んだせいで覚えたての言葉がまだぐるぐるとしている。これは袋の中に入っていたBL特集雑誌らしきもののせいだ。
全て読まなければと思い通学鞄に1冊だけ入れておく。真面目な自分を憎んだよ。まあ外で読むことは無いが一応の念の為だ。
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サッカーの授業中、ぼーっとしていた。
「加瀬、攻めに対してやることがあるだろ?」
「受けです」
「柔道の場合はな、サッカーでは守りだ。覚えておけ」
普段の俺なら守りって答えてるはずなのに、完全に脳がやられている。
「バカかよ」と、金髪が目印の兼本 有 に小突かれ笑われる。兼本はいつも連んでいる俺含め4人の中の1人だ、こいつはとにかくヘラヘラしててヤンキーってわけではないのに金髪で 、なんか緩い。
最初に俺に話しかけてきたのはこいつだった。
体育が終わったあと事件は起きた。
帰りのホームルーム中、鞄を机の上に置いたまま中に入っている教科書を出そうとした時伏せていた頭が良い感じに当たり鞄の中身が落ちる。
「あっ」
ペンケースやらなんやら、色々中身が出てしまった。
しかも例の本まで、うわやべと思いすぐに拾おうとするが他の手によって拾われた。
まずい、と全身が警報を鳴らす。
「なんだ、これは」
見上げると担任の杉橋の顔。
「読書の本です」
「なんだ加瀬は漫画を読書にしているのか」
「はい」
「そうか」
にっこり笑う杉橋そして、俺もにっこり。
「没収だ、後で職員室へ来なさい」
終わった。ちょっと中身覗いてるし、表紙丸見えだし。
案の定教室がザワつく。何も無かったようなフリをし、黙って席に着く。
視線を感じ右を見ると隣に座っている光太郎がチラと横目で見てくる、目が合うなりフッと鼻で笑うのだ。
「なんだよ」
「べつに...」
このいけ好かない佐久也 光太郎とは性格が合わないのだろう。
俺は仲良くしようと思って、クラス替え初日に話しかけたらガン無視をされた。
しかし気づけばいつも一緒に連んでいる。
あの時のあれはなんだったのかと聞くとお得意の鼻笑いをした後、
「ああ、あれ、ハエが飛び回ってるのかと思ったわ、、いやごめんハエに失礼か」
「は?」
とガハハと笑われる。
その時から俺はこいつとは関わらないようにしている、がこいつは俺の家に遊びに来たり
しかもなぜかは分からないが俺の家族に好かれている。俺もこんなやつを家に招いたのか不思議でしょうがない。
だが、俺は知っている。
こいつがどうしようもなくツンデレで、去年の文化祭で光太郎のクラスはシンデレラをやったらしい。
その時女子が誰もシンデレラをやりたがらず投票にしたところ光太郎が選ばれ劇をした時からツンデレラと密かに呼ばれていることを。
実はそういう所が好かれるポイントなのかもしれないと思う。
周りの奴らはツンデレラちゃん、とふざけて呼べば恥ずかしそうに暴言を吐き、弄られていて面白いのだが俺が前にツンデレラと呼んだら死ぬほどキレられ、丸一日口を聞いて貰えなかった。
「はぁ...」
そんなことはどうでもいい、職員室行かなきゃな。
廊下を歩いている途中、聞き慣れた声に引き留められ、振り返る。
「先輩!」
「のぎもと!」
爽やかで柔らかい笑みを浮かべるが決して嫌味も無く媚びているようにも見えない野木本に俺の心は安らいだ。
「あの、これ...」
と、マフィンを差し出してきた。
「弁当食べた後だと一つしか入らなくて...」
「え?くれんの?」
はい、と次は照れたような笑みを浮かべる。
可愛いが小動物的ではないし、逆に俺より背は少しだけ高めだ。可愛い、これはもう俺の癒しなのである。
野木本 若 。
今年知り合ったばかりだが、その出会いはもうこれまでにないほど衝撃的だったのを覚えている。
あれは昼休みのことだった。
校庭では球技遊びをする生徒がいるので、保健委員で校庭を当番で見回ろうという謎の七面倒臭い仕事をしていた時、バスケットボールが顔面に直撃した。
コントロール下手かよ、なんて思う暇もなく鼻血やらじわりと涙やら。
かなり痛かった。
やべ先輩じゃね、怒られるかもよー、とか色々聞こえて恥ずかしくなる、それ以上何も言わないでくれ。
「大丈夫ですか!?」
と、飛び出してきた男子がいた。
それが野木本くんである。
保健委員の見回りのくせにしかも下級生に保健室へ連れていかれる恥ずかしさは今でも忘れられない。
「ほんとにすみません...」
申し訳なさそうに謝られると、ボケっとしていた自分が情けなくなる。
「いやいや、俺もあんなとこで突っ立ってたのが悪いから」
「たしかになんであんな所に立っていたんですか?」
純粋に投げかけられる質問が心に刺さる。
「俺、保健委員だから」
「あー!!、そういうこと!え、?じゃあ、あ、すみません!!!」
何かに気づいたのかいきなり謝り出す。
「はー、バカだわ俺」
ははは、と軽く笑えばますます眉を八の字にして俺を見てくる。
「やめてよ、俺が悪者みたいじゃん」
「違うんです!先輩がボールを避けられなくて情けなさを感じているのを軽く流すことでそんなに気にしてないよと思わせたいことを察しているのではなくて...!!」
「それ察してんじゃん」
「俺も、保健委員なのに先輩のこと知らなかったのが情けなくて!!!!」
「へ?」
変なことを言うなこの子。変な子なのか?髪も茶色だし。
「そうそう、俺も保健委員なんですよー」
昼休みの終わりが近づいた頃、もう俺と野木本は仲良くなっており廊下を一緒に歩いている。
髪染めてんの?ヤンキーなの?と聞けば、違いますよ、地毛です!!とポケットから律儀に畳まれた地毛証明書を見せつけてきた。
「おい、そこの生徒その頭髪はなんだ」
威嚇するよな声に驚き、振り向くと校則のゆるゆるな校風に合わない何故か生徒指導に異様に厳しい牧下という体育教師が近づいてくる。
失礼かもしれないが、まるでゴリラのようだ。いやこれはゴリラに失礼だ。
「いや、あのこれは地毛で...」
「皆そう言う奴ばっかりだ、ここの校則は狂っている」
何度言っても聞いてくれないことは、俺は十分理解している。
聞いてくれなくなってしまった原因は実際生徒にある。
地毛、と口頭だけで嘘をつくことが多発しているのだ。
鬼の形相に焦っている野木本は肝心なことを忘れている。
「野木本、証明書出しなよ」
「あ、そうだった」
証明書は一応、きちんと申請されているものなので教師も納得せざるを得ない。
「はぁ...早めに出しなさい、こういうものは」というとスタスタ歩いていってしまった。
「めんどくさかったな」
「先輩っ!!本当にありがとうございます!」
そんなにキラキラした目を向けられると、ただ一言足しただけだが、最高に善いことをした気分になる。
ああ、懐かしいな...と一人思い出に浸っていた。
それからちょくちょく廊下で会うことが多く、たまにいろいろ話したりする。
「いやー、すんごい美味いなこれ、誰からもらったの?これ、彼女とか?」
冗談混じりに問いかけると顔を赤らめた。
「俺が......作りました」
「え!?」
食べた残骸と野木本を交互に見る。
「お前は.........どこまで............モテ男度が高いんだ?」
「...いや、そんな…。美味しかったなら良かったです、次は委員会でまた」
おう、と手をハラハラと振る。
「あ、...職員室」
癒しの時間は束の間、重たい気持ちで職員室へと向かい地獄の問答にあったことを話すのは野暮だろう。
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