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第8話
体育の時間、サッカーのチーム戦の順番が終わった俺と兼本はトラックの外側でボール拾いをしている。
よし、今がチャンスだ。
「兼本、今日の放課後空いてるか?」
「あー...今日は無理かも明日とかなら」
「すぐ相談したいんだけど、今でもいい?」
「そんなに急に?まー、いいけど」
軽いノリで言っていいのかわからないことだが、誰かに話した方が楽だろう、兼本はそういう理解、現実で考えたとしてもそこそこはあると思う。
全部を話すわけじゃないが、軽くそういうことがあった、という事にしておこう。
まだ恋愛的に好かれていると決まったわけではない。そして昨日のことを伝える。
「...ってことがあって、まさかとは思うけどさ」
「やば、それはやばいよ加瀬、鼻血出そう、今どきほんとに身近にあんのか...............やべぇな...はーー...素質あるよマジで加瀬......え、ちょっと待って会わせてよ、その幼馴染くんに..」
「きも、兼本」
嘘だと思いたい。俺が想像していたのは、相手の気持ちを気遣って「そうか...それは驚くよな」とかそういう言葉をかけて欲しかった。
なんだよこいつ、興奮してんじゃねえか。
話す相手を間違えたかもしれない。
しかしその話す相手は消去法でも兼本しかいないのだ。話を聞いてくれるのはとても嬉しいがやっぱりこういう言葉しか出ない。
「いっぺん死ね」
「は?!そんなこというなよ….んー、まあ今の状況を楽しんでなくて本気で困ってるんだったら花ちゃんに相談した方がいいかもね...」
楽しんでるわけねぇだろ。
「花仟?」
ま、いろいろあるのよ、とその場では濁されたが花仟なら何となく話が通じそうだったし相談してみるのも悪くないと思った。
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「...ということがありまして」
「なるほどね」
花仟はゆっくりと呟いた。
いきなりこんなことを話して、大丈夫なのだろうか。
問題解決?助言?もらったところで静がどうにかなるような気はしない。
「兼本に花仟に相談すればって言われたんだけどさぁ...いい迷惑だよな」
「そんなことないよ」
「え?」
「なゆが話してくれて嬉しい」
面と向かって言われてると何だか恥ずかしい。花仟の穏やかな笑みはいつだって誰かを癒して、また誰かを虜にしてきた...らしい。
女子曰く、ミステリアスな儚いセクシーうんたらかんたら系だとか。
「なんだって兼本は花仟に相談しろって言ったんだろうな」
「どうしてだと思う?」
ゆっくりと目を細める花仟。
笑っているのだろうか、それとも。
見渡せば廊下の方も生徒は誰もいない。
花仟のいつもの優しい目とは違い、瞳の奥が真っ黒で何かが待ち構えているような気がする。
「え、と」
「普段あんまり学校に来ない俺に相談ってしないと思うよ、それなのにゆうは俺に相談しろって...どういうことだと思う?」
閉塞的な雰囲気に心臓は大きく脈を打つ、何も言えない。体がこの後起こるかもしれないことに警告を出している。
「なゆは単純だよ、俺に何が出来るかなんて考えずに相談しちゃうんだから、どうするの?悪いこと企んでたりしたら」
「悪いことって...?」
確かに今は少し悪い顔をしているような気もする。
しかし普段は穏やかで一番接しやすい友達だ。そんなことを考えていたらキリがない。
「俺ね、可愛い子が好きなんだ」
「え?、、、は、はい」
予想だにもしないことを言われ混乱する。
男子は可愛い子が好きなものなのでは?
「別に誰でもいいわけじゃないけど、可愛い子なら、ね?」
ゆっくりと喋る花仟の声は、まるで獲物を捕らえる前の獣のようにじわりじわりと追い詰めてくるようだった。
目の前にくる花仟。
がら空きの教室に男二人、そして接近。
可愛い子ってどんな...と言おうとした時、耳元で囁かれた。
「なゆってすごく可愛いよね」
それ以降花仟の顔は当分見れなかった。
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