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第1話 禁忌の交わり

 ガンッと頭が壁にぶつかる。  視界に星が飛び、一時的に意識が遠退いた。  狭い個室トイレで便座を跨いだ祥は必死に抗おうとした。だが、体重が自分の倍以上ある男の体を押し退けるのは無理だった。 「やっと……やっと抱けるよぉ。この白い肌、きゃしゃな腰……ずっと夢の中で犯してたんだ。奇麗なオメガ! かわいいオメガ! アルファのボクに犯されるためにある体!」  樽のような体型の男がのしかかってきた。  見た目以上に動きが速く、身動きできなくて男のキスを首に受ける。気持ち悪くて寒気がした。 「ハァァ、イイ匂い! 君のこの匂いが欲しかった。半年間ずっと我慢してたんだよ。君に近付くためにイイ人になってたんだ。君のかわいいアソコをしゃぶってベトベトにして青臭い精液を飲ませてもらう日を夢見てね!」  卑猥な台詞を吐く男の手がスラックスに伸びてきた。器用に動いて前を解く。  とっさに手首を掴んだが無駄だった。男の力は信じられないくらい強い。腕力も体力も男性の平均以下、いや女性の平均をも下回るオメガでは太刀打ちできなかった。 「あぁぁ、イイ匂い。汗で蒸れた君のアソコの匂い、堪らないよぉ。もう、ムラムラが止まらないよぉ!」  異常な量の汗で頭や顔面を濡らす男の顔が股間に近付く。  太く短い指がトランクスの前を開いて楔を引っ張り出す。恐怖で小さくなった楔を見て男が卑猥な笑い声を上げた。 「ちっちゃくてかわいいよ。オメガのココは少年のアレみたいで本当にかわいい! さぁ、舐めて気持ち良くしてあげるね。とってもよくなるよ」  剥げた頭が激しく動いて楔にむしゃぶりついた。  生温かい舌がベッタリと楔にまとわりつき、ビチャビチャと唾液の音を立てながら根元から先端まで舐め上げる。 「ヒッ!」  おぞましい光景に全身が震えた。  男の舌が裏筋を舐め、先端の鈴口をジュルジュルと啜っている。快感なんてあるわけが無い。  逃げようと腰を退くと歯を当てて痛みを与えてくる。逃げたら噛みちぎるとでも言いたそうだ。逃げるのを止めると男はより激しく楔を啜った。その刺激で楔が少しずつ硬くなっていくのも怖かった。  祥はオメガ、男はアルファだった。  この世界の人間は3つの種に分類される。最も多いのがベータと呼ばれる「普通の人」だ。いわゆる凡人と言われる者達で男女間で子を成す特性を持つ。  一方、アルファは身体能力も知能も常人をはるかに凌ぐ優越種だ。あらゆる業界の頂点に立つ者達は皆アルファといっても過言ではない。繁殖能力に乏しい特性があるが、それ以外の面では全てにおいて優れた者達だ。  そして、オメガは男も女も常人より華奢で非力。知能はベータと変わらないが、繁殖能力に優れていて発情期があるのが最大の特徴だ。オメガは男も女も数カ月に一度、発情する。そして、男女問わずアルファの子を宿す能力を持っている。  オメガはこの「発情」のせいで蔑まれていた。  発情期のオメガはアルファとセックスすること以外何も考えられなくなり、どんな卑猥な要求も飲むという性に溺れた獣になる。こうしたオメガを軽蔑し、性的に弄ぶ奴隷としか思っていない者もいる。そんなアルファに祥は今、犯されていた。  男は製薬会社の社長だ。  製薬会社としては中堅クラスだがここ数年、新薬の開発分野で他社を圧倒する業績を上げている。そんな製薬会社から祥は動物病院で使う医薬品を購入していた。 「会社でクリスマスパーティを催すから来て欲しい」  そんな男の誘いを断ったのだが「取引停止」をちらつかされ、渋々参加を承諾した。少しだけ参加して、すぐに帰ろうと思って会場に来たのだ。  会場で別の製薬会社の営業と知り合えたら男と取引するのを止めることも考えていた。  パーティが始まって数名と名刺交換をし、帰る前にトイレに寄ったところで男に掴まったのだった。パーティが始まってまだ一時間も経っていない。それなのに主催者であるはずの社長は挨拶を終えてすぐ、トイレで情事にふけっていたらしい。  祥がトイレに入った時、あられもない姿の女が二人倒れていた。それに驚いて外へ出ようとしたが個室に連れ込まれて今に至る。 「あぁ、気持ちいいんだね。ほら、勃ってきたよぉ。かわいいねぇ。ボクの口で喜んでる」  男は嬉しそうに言うと、これまで以上の激しさで口淫を続けた。  便器が邪魔で足を閉じられない。目の前に居るのは丸々と太り、頭も禿げ、脂ぎった顔と血走った目で性器にむしゃぶりつく中年男。  それなのに、自分の楔は舌の妙技に喜び、快感に震えているのだから救いようがない。相手がアルファならどんな男でも欲情し、白濁を放とうとするのか。オメガという浅ましい体を忌々しく思いながら奥歯を食い縛った。  しかし、気持ちがいい。腰が震える。唾液をタップリとまとった分厚く生ぬるい舌で根元から先端まで舐められ、強く啜られ、舌の腹とザラザラとした上顎で挟み擦られるとゾクゾクした快感が下腹部から背筋へ這い上がってくるのだ。  だが――。 「ダ、メだ……!」  祥は息を止めたまま言った。 「は、やく……口を、離せ!」  両手で男の頭を抑え、腰を退こうとする。このままだと男の口の中に欲の証を放ってしまう。白濁を男が飲み込んでしまう危険があった。 「らめ?」  楔を口に含んだまま、男が疑問の声をあげた。だが、止める気配がない。快感に悶えていると思ったのか、刺激を一層強めてくる。 「ダ、メだ! このまま……続けて私が……イッたら……お前が……」  そこまで言った時だった。  男が楔を深く咥え込み、ジュルジュルと吸い上げながら激しく舌先を踊らせた。最も敏感な先端がぬめる刺激に包まれ、一気に快感が深まった。腹の奥で欲の塊がドクリと脈打つ。濃密な快楽が広がって全身に震えが走った。 「あ……ッ! ダ、ダメェッ!」  抑えきれなくて喘ぎ声が漏れた。腰がビクビクと震え、楔の先端から欲があふれる。  それを嚥下する男の喉の動きが伝わってくる。ジュルジュルと啜るような音を立てながら男が何度も喉を動かした。 「駄目だ、と言ったのに……。私の体液が体に入ったらアルファのお前は……」  震える声で言いながら渾身の力を腕に込めて男を押し退けた。今度はあっさりと巨体が床に転がった。  大急ぎでスラックスの前とスーツの乱れを直し、ずれたメガネを指先で押してから個室を出た。肩まであるストレートの黒髪を揺らし、手洗い場で顔をバシャッと洗ってから早足でその場を後にする。  ドアが閉まった後、トイレには性交の痕を全身に残す半裸の女二人と、個室で白目を剥いてあおむけに倒れ、だらしなく開いた口から涎をダラダラと垂らしている男が残っていた。 「エヘ……ヘヘヘ」  男は気味の悪い笑い声を零しながら、発情期の犬のように腰を揺らしていた。  やがて、男のスラックスの前が濡れてシミが広がった。しかし、男は相変わらず白目を剥いて薄笑いを浮かべたままだ。  多量の薬物を摂取して正気を失った廃人のような姿を晒し続けていた。

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