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第一章 形のない処方箋

 誰よりも遅く礼拝堂に現れたルドーニは、真っ先にある人間の不在に気づいた。  ぼちぼちと整列しだした仲間のひとりをつかまえ、さりげなさを装って訊いてみる。 「1,2,3、……ひとり足りないんじゃねえの?」 「ん?」 「ヴァフィラは? 姿見えないみたいだけど?」  あぁ、とさして気にも留めないような口ぶりでグランは軍服に羽織るマントを整えながら応えた。 「また体調不良じゃないのか? このところ調子が悪そうだったからな」  あ、そ。とこちらも気にしないふりをして応じたが、内心にはさざなみが立っていた。  カラドの魔闘士・ヴァフィラ。  毒を司る能力を持つ彼は、しばしば健康を害した。  その血液にさえ毒をはらむという体だ。  時折体内の毒が自らに悪影響を及ぼすことが仲間内にも知られていた。  大抵は一日二日安静に過ごせばすっかり元気になってしまうので、幼いころからの付き合いのある者たちにとっては、ああ、またか、で済まされる事だった。  ただ一人、ルドーニをのぞいては。

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