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十と五(4)

 食事は最高に美味かった。 「ごちそうさまでした」 「気に入ってもらえたようだな」 「はい」  味も良く見た目も綺麗だった。コースが二種類あったので、もう片方のも食べてみたい。  それに会社に入ってから、二人きりでゆっくりするのははじめてだ。  心地よい空間と、弾む会話。その時間が楽しかったのだ。 「また食べに行くか」 「うん、行く」  ちなみに食事も奢りだから最高だ。 「円」  外套の下。腕をつかまれて引き寄せられた。 「どうした……、んっ」  唇に暖かく柔らかなものが触れて、そして離れた。 「十和田さんっ」 「付き合うまで手を出すなと言われてたのになぁ。もう無理だわ」  前髪をかき、つらそうな表情を浮かべた。 「俺は今でも円が可愛くてしかたがないんだ」 「うそだ。百兄の友達だってだけなのに、べたべたしてきて気持ち悪いって思ったんでしょう!?」  敬語は十和田と距離を作るためにわざと使っていたのだが、今は使っている余裕がない。 「え、何だよそれ」  一度もそんなことは思ったことがない。そう十和田は円の腕をつかんだ。 「じゃぁ、なんで俺に彼女がいるか聞いたの!」  十和田が目を見開く。やはりそういうことだったんだと円はつかんでいる手を振り払った。 「つれなくされたからって、いい加減なことを言わないで」  そう言い残して歩き出すと、再び外套の下へ引き込まれる。 「何を」 「かっこ悪いから言いたくなかったんだけど、あれはな、円に恋人がいないか確認していたんだ」 「はぁ!?」  そんな理由だったんて。気持ち悪いと思われたくなくて嘘までついたのに。   「それに、好きな人がいると言われて、ショックだったんだ。会いに行けないほどにな。そうしたら円も受験だとかであえなくなって……」 「それなら、俺のことが好きだって正直に言えばよかったじゃん」 「百さんと一ノ瀬さんから、円は受験生だから高校生になるまで待ってと言われて。だけど全然会えなかった」  その時は円が十和田のことを避けていたからだ。 「志望動機は円に会うため、だからな」 「馬鹿じゃないの」  そのために選んだなんて。どれだけ会いたかったのだろう。  どれだけ思ってくれたのだろう。 「円、顔が緩んでる」  そう、頬に手が触れる。 「そういう十和田さんも緩んでるよ」 「そりゃ、円も俺とおんなじ気持ちだったとわかったらさ、嬉しくて」  その手が今度は唇へと触れた。 「別に俺は十和田さんのことなんてなんとも思ってないから」 「とかいいつつ、好きだろ、俺のこと」  唇がふれ、舌が口内を愛撫する。それが気持よく小さく声が漏れる。  好きだ。痛い思いは二度としたくなかったのに。  つれない態度をとってまで近寄らせないようにしていたのに。  十和田が傍にいる。それが本当は嬉しかったのだ。 「ん……」  好きでなければ腕を絡めたりしない。 「円、お前の部屋に行っていい?」  はぁ、甘く息をはき、ささやく。 「いいよ」 「それじゃ、行こうか」  手を握りしめられて指を絡めた。

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