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白き灰がちになりてわろし 5

「で、いとーくん? お前はなんで、今日、上地につき合ってやってたの?」  ハルボンが聞いてきた。   「聞きたいか?」 「聞きたいなあ。上地といとーくんがお互いに極力名前読んでない理由も、何でオレがいとーくんにあんまり好かれてないのかも」 「気がついてた?」 「まあ、ね。同室だし一緒にいるんだから、好かれてるかどうかくらいはわかるっしょ」 「いや、別に嫌いじゃないぞ。ちょっと胡散臭いって思ってるだけで」  それも結構だ~そう言って、胡散臭い顔でハルボンが微笑む。  いや、多分ハルボンは何にも悪くなくて、俺がそう思ってしまっているってだけ。  この機会に腹を割るのもいいだろう。 「ハルボンは、上地って呼んでやるんだな」 「本人がその方がいいって言ってたから」 「俺には、リセットしたいからカミヒって呼べって言ってきたんだよ……前は、普通に上地って呼んでた」  上地とは小学生のころから塾で一緒だった。  地元校ではあんまりうまくいってなかったみたいで、せっかく全寮制の学校に来たのにって、俺の顔を見て言った。  だから、呼びたくないけどカミヒって呼ぶようになった。  向こうも俺のことを新しいあだ名で呼ぶようになった。  あきらの字が公で、ハム。  有名なハムの会社の名前から、いとーくん。  そう説明したら、ハルボンは少し考えてから申し出た。 「そっか……いとーくんって、呼ばない方がいい?」 「いや。そこはべつにもういい。定着しちゃってるし」 「いとーくんは、上地のことどう思っていたの?」 「さあ?」  どう思っていたかなんて、考えたことはなかった。  ただなんか、カミヒの言葉が寂しいなって思ったんだ。 「そう言われて、新しい関係を築かなくちゃいけないんだなって思って……そうするためにもちゃんと見とかなきゃなって、今日誘われたからついてった」  ハルボンのことを胡散臭い爽やかくんだと思ったのは第一印象で、そのあとずっとどうにも胡散臭いと思いながら見ていたのは、上地がハルボンを追うようになってから。  別に深い意味はない。  ハルボンはいいやつで、聞けばちゃんとホントのことを答えてくれるやつだった。  ものすごく大事にしている人がいて、その人が年上なのも大事にしているのも、ホントだった。  ホント、俺、どうしたかったんだろうな。 「そっか。お互い歯痒いな」  ハルボンがそう言って、俺に枕を投げてきた。   「それは、お前だけだろうが」  受け止めて投げ返す。  「いや、いとーくんもたいがいと思うよっ」  枕が返ってきたからまた投げ返して、次を待たずに俺の枕を投げた。  終いには布団まで投げ合って、ハルボンと俺が喧嘩したことになっちゃったのはびっくりしたけど、まあそれも楽しかった。  胡散臭いと思っていた同室の男は、以来、やっぱり笑顔が胡散臭いけど、頼りがいのある友人になった。   <END>

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