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同居人の誕生日は今日だけど、俺は何も用意してない(4)

「俺、今から寄りたいところがあるんだ。細川は先に帰っててよ」 「帰ってくるのが遅くならないなら、オレもついてくけど」 「いや、良いよ。どれくらい時間がかかるか分からないからさ」 「そうか。分かった」 盛山は努めて笑顔で話をし、細川より一足先にスーパーを出る。盛山は、細川が誕生日を忘れていたということを今は信じてやることにした。祝福したいという気持ちも本当だからだ。スーパーやコンビニのデザートも好きだが、やはり誕生日は特別な日なので、少し高級なケーキできちんと祝いたい。 とはいえ、家に帰ったら覚えていろという気持ちもある。祝意も苛立ちも、盛山の正直な気持ちだ。 盛山は、自分の恋人らしいことがしたいという欲望と、細川をちょっと困らせてやりたいという気持ちを両立する方法はないものか、と頭を働かせた。 細川は慎重で奥手なところがあるが、だからといって盛山に引っ張ってもらいたいとも考えていないようだ。 少し強引な――でも恋人という関係の下でなら許してもらえるような悪戯があれば良いのに。けれど、そんな手段が存在するかどうかは疑わしい。洋菓子屋はすぐそこまで迫っていた。 その洋菓子屋はフリューゲルという名前で、レンガ造りのような外観の店舗だ。時間が遅いからかケーキの品ぞろえは限られたものになっていたが、残った品々ですら上品に佇んでいた。 フリューゲルは多くの洋菓子屋のように、ケーキなどの生菓子と、クッキーなどの焼き菓子を両方販売している。 盛山は今のバイト先に入社する際、ご挨拶がてらここで購入した焼き菓子詰め合わせを持参した。それがパートのおば様から非常に好評だったので、今度はケーキも食べてみたいと以前から目を付けていたのだ。 細川は何にする? と口走りそうになって、盛山は焦った。店員の女性に変な人だと思われるところだった。自分から別行動を取ったばかりだというのに、細川が横に居るのが当たり前だと思っている自分が、盛山は恐ろしかった。 細川の甘味の好みをはっきり聞いたことはないが、彼がチョコレートを食べているところを見たことがあった。チョコレートのケーキに外れはないはずだが、念のために生クリームのケーキを自分用に選んでおき、どちらが良いか細川に選んでもらえば間違いはないだろう、と盛山は作戦を立てた。 レジで、シャインマスカットのショートケーキとザッハトルテを頼む。そして、レジ付近に置いてある箱詰めの生チョコもこっそり追加してもらい、ラッピングもお願いした。

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