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同居人の誕生日は今日だけど、俺は何も用意してない(6)

細川は嫌なのだろうか。好きだと言ってくれたのは、そういう意味ではなかったのだろうか。それとも、まだ早かっただけ? 今度は盛山が生気のない顔をする番だった。 「細川、無理強いはしないけどさ、そんなに嫌か?」 「違う、嫌な訳あるか。キスはしたいけど、ただ、歯を磨かせてほしいと思って」 「歯? 毎朝磨いてんだろ」 「夜も磨いてるわ。でも、いざキスして、お前に変な顔されるのは嫌だし」 少し待ってろ、と細川は洗面台へ消えていった。そんなことを言われると、盛山も歯を磨かなくてはいけない気分になる。とはいえ、二人揃って歯を磨いた後にキスをする気にもなれないので、細川が戻ってくるまで待つことにした。 「お待たせ」 「……俺も歯磨いてくる」 「別にお前もやれって言ってるわけじゃないよ」 「この流れで磨かないわけにはいかないだろ」 軽く歯を磨いて口をゆすぐ。今から細川とキスをするのかと思うと、今更ながらに心拍数が上がってきた。 戻ると、細川がベッドの縁に座って待っていた。隣に座って手を重ねると、細川は指と指を絡ませてくる。こうやって触れ合うだけでも十分恋人らしいし幸せだな、と盛山は感じた。 「色々我慢させてたな。ごめん」 「俺も自分から何も言わなかったのに、勝手に苛々して悪かったよ」 「誕生日のことはオレも悪いだろ。正直祝ってほしいとは思ってたんだけど、盛山もオレもバイトあったし、当日言われても困るかと思ってさ」 「細川は気にしすぎなんだよ。当日なら当日なりの物を渡すんだから、もう遠慮するな。来年は絶対に朝から祝ってやる。……誕生日おめでとう」 「ありがとう、やっぱ祝ってもらえると嬉しいわ」 細川の繋がれていない方の手が、盛山の頬に添えられる。近づいてくる顔を直視するのが気恥ずかしくて、盛山は目を閉じた。 「……健」 細川に名前を呼ばれるのは初めてだった。胸の奥がキュッと締めつけられて、そこからじんわりと温かさが広がっていく。絡ませた指に力が入って、細川の吐息と体温を感じた。 ファーストキスはレモンの味だ、などと言ったのは誰だっただろうか。 盛山と細川のキスは、清涼感があってひんやりとした、キシリトールの味だった。

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