「考えが刹那的すぎないか？　オレはあいつと別れないし、嫌いになることも好きじゃなくなることもない。終わりを前提にした考えは好きじゃないな」 「うわ、重っ……考えが青すぎるわ。今一番楽しい時なのは分かるけど、相手の気持ちもあるんだから考えてあげた方が良いよ。あたしが言えた義理じゃないけど」 賢太郎の気持ちは確かに重いな、と健も思ってしまった。その重さに嬉しさと安らぎを感じることも確かだけれど、それも好きでいる間だけなのだろうか、と少し不安にもなる。お互いずっと好きでい続けられる保証もない。人の気持ちは不定だ。そう考えると、今賢太郎と付き合っていてお互いに好きでいられる今は掛け替えのない時間だと思える。 そういえば、あまり未練とか無いなあ……と知恵美は溜息交じりに呟く。諦めがつくのが早くなっちゃった、と声を絞り出した知恵美は涙ぐんでいる。健は内心慌てるが、賢太郎は落ち着き払っている。 「賢太郎の重い気持ちに中てられちゃった。好きだったはずなのに……あたしの気持ちって、そんな軽いものだったのかな」 「自分を大切にしてくれない奴を好きでい続けても意味はないだろ。姉さんを大切にしてくれる奴は、今後絶対に現れるはずだ。そいつに時間割いてやれよ」 「そっか……そうだよね。前に進まなきゃ」 賢太郎は席を離れて台所に立った。何だかんだ言っておきながら、知恵美にも晩ご飯を作ってやるのだろう。健も手伝おうと近づく。皿は足りるだろうかと思案していると、健太郎が鍋を取り出したので安心する。足りない取り分け皿は味噌汁のお椀も使えば足りるだろう。