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恋人が最近余所余所しい

「お前と一緒に風呂に入りたいんだよ」 細川賢太郎が、同居人兼恋人の盛山健にそう告げてから一か月が経った。 二人の住居は、元々が健の一人暮らしだったため、部屋の広さや間取りが一人暮らしを想定したものとなっている。それは風呂も然りだった。健と二人で湯船に浸かりたいという賢太郎の淡い願いを叶えるため、今日は二人で旅行に出かけることを決めていた。風呂以外の目的が欲しいという健の希望を取り入れて、隣の県までドライブすることになっている。とはいえ、予算の関係上、泊まるホテルは二人の住む県内にあるのだが。もはや日帰り旅行である。 健はどうだか知らないが、幸い賢太郎は運転に苦手意識はない。手続きをし、荷物を詰め、軽自動車の運転席に座る。健も助手席に乗り込んで、シートベルトを締めた。 この旅行で賢太郎が完遂すべき目的は二つある。 一つは健と一緒にお風呂に入ること。 もう一つは、最近余所余所しい健と距離を縮めることだ。 恋人が最近自分を避けていることに賢太郎は気づいていた。その理由にも心当たりがある。 数週間前。初めて健の一糸纏わぬ姿を見た。 興奮しなかったと言ったら嘘になる。けれど、賢太郎の心持ちとして、健に対する心配の方が勝っていた。健が始まる前から生気のない顔をしていたからだ。 健の怯えた表情が心に焼き付いている。まさか、そんな目で見られるとは思わなかった。彼が相当不安になっていることが分かったから、抱きしめて、好意を伝えて、名前を呼んだ。健の身体はとても冷えていた。

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