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恋人が可愛いので、オレの我慢が利かない(3)

アウトレットモールにほど近いところに無事駐車すると、健が飲み物を差し出してきた。 礼を言って一口飲む。緊張が解けて、息をゆっくり吐き出した。 「賢太郎、運転してくれてありがとう。疲れただろ」 「大したことないよ、三十分だし。高速道路を走るのは流石に久しぶりだけど、新鮮だった。お前も隣に居るし」 賢太郎は健の手を握る。乾燥していて温かな手のひらが、次第に湿気を帯びていった。隙間なく手のひらを密着させていると、健も手を握り返してくれる。 「最近こうやって、触ってない気がする」 健は、賢太郎の口からぽろりと零れた言葉にどう返して良いのか分からないようで、困ったような、申し訳ないような顔をしていた。 こんな恨みがましい言い方をしても、健を困らせるだけだと分かっていたのに。本当に伝えたかったのはそんなことではない。賢太郎は真っ直ぐな言葉を探す。 「健に触りたい。抱きしめたい。……キスしたい」 言葉にすると、ますます欲求が高まっていく。外には車もたくさん停まっているし、人も歩いている。今、出来るわけがない。分かっている。握る手が汗で濡れていった。 「……確かに嬉しいとは言ったけどさ。今すぐは無理だよ」 健はその発言とは裏腹に、固く手を握り締めてきた。表情も少し明るくなっている。相変わらず困ったような顔をしているが、口の端には微笑みが浮かんでいた。 「……頭撫でるぐらいなら良いけど、他はホテルまで我慢してくれよ」 健がそう言って頭を差し出してきたので、賢太郎は握っていた手を離して頭を撫でる。癖毛で柔らかい髪の毛が手に纏わり付いてきて、心が安らいだ。健の表情も柔らかい。

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