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恋人が可愛いので、オレの我慢が利かない(4)

撫でる手が耳に触れたとき、健の肩がピクリと動いた。健の顔は平静そのものだったが、心なしか表情が固い気がする。……もしかして、耳が弱いのかもしれない。 好奇心と悪戯心に従って、繰り返し健の耳に触れた。しっかり形を確かめた後、凹凸をなぞるように優しく全体を撫でていく。健は顔を俯かせて、あからさまに肩を跳ねさせた。その度に、賢太郎を制止する声が薄く漏れる。その姿に、いかがわしいことを妄想してしまいそうだった。 そんな健の様を目の保養にしていた賢太郎は、遂に逆襲に遭うことになる。健は賢太郎の手を両手で掴むと、賢太郎の手の親指と人差し指の付け根の交点を思いっきり押した。合谷のツボだ。それを認識する間もないまま、賢太郎は独特の痛みに襲われる。 「そこまで強く押すことないだろ!」 「仕返しだよ。やめろって言ったのに」 健はそっぽを向いたままだ。そんな態度も可愛かったけれど、このままでは触ることすら禁止されそうだったので、賢太郎は許しを求める。健は賢太郎の方に向き直ると、次はないからな、と念を押した。 そんなやりとりの中で、賢太郎の中で大きな錘となっていた心配事が一つ消えていくのを感じる。健が、自分と別れて友人に戻ろうとしているという懸念。本当に健がそうしようとしているなら、さっきだってやりようがあったはずだ。渋滞に巻き込まれた時の優しい声も忘れられない。本当のところは分からないけれど。 何にせよ、腹を割って話すのは今ではない。二人は車を出て、アウトレットモールへと向かった。

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