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オレは恋人と先へ進みたい(2)

脱衣所で服を脱ぎ捨てる。健の服もそこにあった。少し乱暴に浴室の扉を開けると、健がシャワーに打たれたまま佇んでいる。 「おはよう。ゆっくりできた?」 「どうして起こしてくれなかったんだよ。オレと風呂入るの、そんなに嫌か?」 「違うから怒んないでよ。よく眠ってたからさ、起こすのが忍びなかったんだ」 少し元気が無いように見える健は、オレンジと黒のストライプ柄が入った容器を持っていた。見間違いでなければローション、だと思う。え、と間抜けな声が出てしまった。 それがローションだとしたら、健はまた一人で、賢太郎に黙って苦痛を耐えようとしていたに違いない。恋人に頼られない悲しみが、怒りと綯い交ぜになる。 「賢太郎? どうかした?」 「それ、何?」 思ったより低くてキツい声が出る。健は答えに窮していた。痺れを切らして、ローション? と尋ねると、健は気まずそうに頷いた。 「どうして?」 「え、っと……」 「また一人で、オレに黙って辛い思いするのかよ」 「……俺、痛いのは嫌だけどやりたくないとは言ってないよ」 健はローションの容器を両手で握りながら、声を絞り出した。中身は半分ほど減っていて、健がそれだけ一人で頑張ってきたことを裏付けている。 「出来なくても好きでいるって賢太郎が言ってくれて、めちゃくちゃ安心したし嬉しかった。さっきもすごく……気持ち良かったよ。でも、自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃうのが申し訳ないんだ」 「それの何が悪いんだ。オレはかなり満足したよ」 「……それは良かったけどさ。自分の力で賢太郎を気持ち良くさせてあげたい、というか。違うな」 健は言葉を選んでいるというより探しているようで、発言が要領を得ない。賢太郎は、健にとって適切な言葉が出てくるまで待った。最終的に健の口から出てきたのは、文脈を無視した突飛な発言だった。

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