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頭を垂れた伝令役の兵士は、かすかに喉を震わせながら言葉を発する。
「く、黑花の奴ら、抵抗の意思を見せました」
「んんぅ~? なんだってぇ?」
癖のある喋り方をする、ガタイのいい大柄の男は大剣を肩に、再度聞き返す。
副将軍・フォルシアンはひっく、と酒を煽りながら遠目に閉じられつつある城門を見やった。
「抵抗が、なんだってぇ?」
「ッ……我々白の帝国軍と、真正面から争う――」
ザン、と一閃が走り、伝令役の兵士の頭が宙を舞った。
ドシャリ。真白い甲冑を泥水に汚しながら、赤色を噴き出して兵士は倒れ伏す。大剣に滴る赤い液体を雨で洗い流すかのように払い、ニンマリと口角を上げて嗤う。
さすが帝国随一の研ぎ師。抜群の切れ味だ。
「無闇な殺生は止めろと言っただろう」
「ありゃ、叱られちゃった。すんませんねぇ、王子。どうも出来が悪いのを見てるとイライラしちまってよぉ」
王子――先頭の騎士は小さく溜め息を吐いた。飲んだくれのちゃらんぽらんの相手はマトモにしてるだけ疲れてしまう。
出来が悪いのを見てイライラするのは自分だって同じだ。
普段なら絶対に着いていかない軍進行に着いてきたのは、行き先が黑花の國だったからだ。興味があったのだ。同じ大陸にありながら、文化も言葉も土地柄も何もかもが違う黑花の國にふつふつと興味が湧いた。
白い肌。黒や茶の髪や瞳。
我らとは違う色彩の民は総じて美しい養子の者が多いと聞く。何よりも当代の姫君は月も翳ってしまう美しさだとか。
「にしても、さっきの、すげぇ王子好みでしたねぇ」
笑いを含んだ声で言う副将軍に嫌気がさす。
「……何が」
「ヤだなぁ門前で叫んでた男の子ですよぉ。びしょびしょに濡れて、白い顔蒼くさせて、――王子が好きそーな顔してたじゃないッスかあ」
「俺が目ぇ悪いの知ってるだろう」
「老眼ッスもんねぇ」
その減らず口たたっ斬ってやろうか、と凄めば肩を竦めた。無駄な殺生が云々とか言っていたわりには積極的に殺しに来てるじゃないかとかそういうのは胸のうちだ。口に出したら本当に殺されてしまう。溜まったものじゃない。
城門が閉まるのを確認して、目を眇める。
「フォルシアン」
「はい、なんでしょう王子」
にっこりと、満面の笑みを浮かべた。
「出撃でるぞ」
「了解しましたァ――砲撃部隊! 前ェ!」
凶悪な笑顔に、右手を上げる。隊列から銃火器を手にした兵が前へと出る。
雨だから火は使えない? そんなの一昔の考えだ。
白の帝国軍の砲撃部隊が扱うのは、魔法弾の銃火器。小さな鉄砲から撃ち出される弾は大砲の弾にも勝る威力。
「撃てェ!!」
ドォン、ドォン、ドォン。爆撃音が数回。光の線を雨の中に描きながら突き進み、城門に穴を開け、雨でも消えない炎の弾は燃え盛る。
第二撃用意、と前列と後列が入れ替わり、一撃目の銃火器よりも大型の、脇に抱えた筒砲は青い稲光を走らせた。副将軍の掛け声とともに発射された雷の弾は、穴の空いた城門から中へ入り被弾する。
「さぁ、行こうか」
「どこまでもお供しますぜェ」
白い悪魔の足音がする。
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