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第1話 沈む日の中、本を開く <Side 柊

 日が長くなり、夕方の6時を過ぎても周りは明るい。  昼間は、ジリジリと焼けるような暑さがあるが、この時間になれば、木陰はそれなりの涼しさになる。  中途半端な上背の垣根や手入れの行き届いていない芝生に、色の剥げたベンチがぽつりぽつりと置かれているだけの(すた)れた公園に足を踏み入れる。  寂れたベンチに座り、手にしていた文庫本を開いた。  日が暮れてしまっても、街灯のほぼ真下のこの位置なら、それなりの明るさがあり本を読むのにも困らない。  序章からなかなか進まない…、何度目かわからない冒頭部分に視線を落とした。  夜と言うには、少し早い。  抱かれたいと思う男が、ベンチに座る。  抱きたいと思う男が、声を掛ける。  それがここの暗黙のルール。  俺、小佐田(おさだ) (しゅう)の手には、時間を潰すための文庫本が一冊。  ポケットの中は、マネークリップ挟まった最低限の札と鍵が1つだけ。  スマートフォンや財布、身分を証明できるものは、裏路地にひっそりと設置されているロッカーに置いてきた。  ここではない場所で会った相手に、財布から金が抜かれたコトがあったから。  免許証やカード類、スマートフォンは無事だったが、何があるかわからない。  それから俺は、こういう場所に来るとき、身バレするようなものは持ち歩かないことに決めた。  文庫本の区切りのいいところまで読んでも声を掛けられなければ、帰る。  そう決めているが、大体、切りのいいところまでなんて読めた試しがない。  声を掛けられないコトなんてない。  相手が見つからないコトなんてなかった。  この本の冒頭を何度リピートしたかなんて覚えてないくらいには。  俺は、声が掛からないコトなんてないくらいの見た目の良い男。  可愛いか綺麗かで表すのなら、綺麗な方。  そんな俺の職場は、小さな化粧品会社だ。  開発部で働いて6年目。  自社で発売している化粧品で軽く化粧を施し、身なりを整えれば、擦れ違う人が振り返るくらいには着飾れる。  でも普段は、化粧もせず、ボサボサの髪に時代遅れの鼈甲メガネで、わざとにもっさりとした格好をしている。  流行遅れのダサいヤツだと認識してくれればいい。  俺の恋愛対象じゃない愛だ恋だ騒ぐと女たちの嫉妬や憎悪の渦に、巻き込まれたくはないからだ。

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