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虎牙&チョコレートフォンデュ-4

 立ったままバックの姿勢は少し恥ずかしい気もするけど、尻を差し出すような形でテーブルに手をついた。後ろから濡れた指が、穴の周りをほぐす。しばらくの間してないから、うまく入るかどうか心配だけど、痛さよりも何よりも剣先輩がほしくてたまらない。  それは剣先輩も同じだから、指が数回ゆっくりと出し入れをした後、すぐに大きなモノが入ってきた。 「うっ…く…」  苦しい…、こんなにつらいものだったかな。テーブルについていた手は、いつの間にかテーブルクロスをつかんでいる。 「遠野…つらいか?」  本当はつらい。でも俺は、首を横に振った。 「だい…じょうぶ…です」 「そうか? ゆっくりするからな」  俺の中に、剣先輩が全て埋まった。ゆっくり腰を引き、また深く入る。緩慢な動きで繰り返されるうちに、剣先輩に最後に抱かれた記憶が蘇る。  最初は獰猛に俺を求めてくるけど、とても優しく触れてくれる。“痛くないか?”って、気遣ってくれる。“痛いです”って言うと、“ごめんな”って優しくキスしてくれる。   「い…いた…」 「悪い、大丈夫か?」  背中から覆いかぶさるように、剣先輩が俺の顔をのぞきこむ。こめかみ辺りにキスをして、剣先輩はさらにゆっくりとした動きになる。 「先輩…もっと…強く…して」 「それじゃお前がつらいだろ」 「いえ…いいん…です」  剣先輩は我慢できないはずだ。もっと激しく愛したい、そう思っているに違いない。 「痛くなったら、言うんだぞ」  腰の動きが強くなった。テーブルがギシギシと音を立てる。背後から荒い息が聞こえてきて、それが一層俺を興奮させる。 「あ…あ…、も、もっと…あ」  もっとめちゃくちゃにされたい。優しい剣先輩も好きだけど、強引に俺を抱く剣先輩も見てみたい。その思いが通じたのかどうかわからないが、剣先輩は俺のうなじに吸いつくようなキスをすると、後ろから強く抱きしめて腰の動きをさらに強くした。 「ふっ…、う…」  腰を強く打ちつけるたびに、剣先輩のせつない声が漏れる。その声を何度か聞くうちに、もう限界が来そうだ。先端からは、しずくが床にこぼれている。 「うああっ…」  たまらなくなって自分で擦ろうとしたら、剣先輩に先に擦られた。じゅくじゅくと濡れた音が、食堂に響く。 「せんぱ…、も、もう…イク…」 「俺もだ…遠野…」  三、四度強く腰を打ちつけた後、俺の体から剣先輩が引き抜かれた。尻の辺りに生温かい感触がある。俺もほぼ同時に、剣先輩の手を濡らしていた。  テーブルに突っ伏して数回深呼吸をして息を整え体を起こしたら、すぐに剣先輩に正面から抱きしめられた。さっきしたような舌を絡めるキスをする。次はいつ、こうしてキスができるだろう。名残惜しそうに、舌はしばらくの間絡み合っていた。  行為が終わった後、紙ナプキンで始末をしてから(食堂の備品でごめんなさい…)並べた椅子に座り、俺は剣先輩の肩に頭をもたせかけ、剣先輩はそんな俺の肩を抱いて、しばらくじっとしていた。  もうそろそろ、見回りの警備員さんが来るかもしれない。服は着ているから、万が一見られても注意をされるだけで済むけど。いや、ジェントルマンを育てる聖トマス・モアの生徒だから、規則は守らないといけない。でも、もう少しだけ――今しか、剣先輩とこうしていられないから。 「剣先輩…」 「なんだ?」 「来年は、剣先輩が生徒会長になるんですか?」  生徒会役員は立候補制で、人数が多い場合は全生徒による選挙になる。決まった役員の中から生徒会長や副会長といった役職が決められる。うちは立候補する生徒は少なく、特に前年度に役員をした生徒が翌年も続行するケースが多いそうだ。  現在、生徒会には二年生が二人いる。ジル先輩はモデルの仕事もあるし、生徒会長は無理だろう。そうなると、剣先輩が生徒会長になる可能性が高い。 「俺は榊会長みたいな采配を振ることはできないし、判断力や仕事の早さもない。今年の二年生の中からだれか生徒会に立候補する者がいたら、そいつに任せたい」  確かに榊会長のような完璧さをほかの人に求めるのは難しいと思う。でも、剣先輩がそんなに自信のないことを言うなんて。 「俺…生徒会に立候補してもいいですか?」  剣先輩を見上げた。驚いた目とぶつかる。 「遠野が…か?」 「はい、剣先輩がやってる庶務を引き受けます。部活と両立は難しいかもしれないけど、調理に手間のかからないものや日持ちするものを作れば、生徒会の活動に参加できます」  今は毎日お菓子を提供してるけど、それを週二、三回にするとか、コンクールや理事会の茶話会などがあるときは部活を優先させてもらえば、なんとかなる。そうすれば、剣先輩ともっといっしょにいられる。 「遠野、一年や二年が生徒会長に立候補してもいいんだぞ」 「ええっ? そ、それは無理ですよ~」  剣先輩が俺の頭を引き寄せ、はははっと笑う。 「ま、お前が来てくれるなら、今よりもっと楽しくなりそうだな」  来年は、今よりいっしょにいる時間を増やしたい。受験をしない剣先輩だから、時間はたっぷりある。それに三年生になったら一人部屋だから、ちょくちょくお邪魔できるかな。  そんなことを話しながら、すでにほとんど人気の無い学園から寮までの短い道のりを、ほかの生徒の姿が見えるまでの間、手を繋いで歩いて行った。 ――虎牙&チョコレートフォンデュ Fin.――

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