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第27話
「でも王様になったら後継者を残さなきゃいけないよ? オレは……オレは王子が……オレ以外の誰かを抱いて子供を作るのが我慢できない……。おかしいだろ? オレは男だから王子の子供を作れないのに、王子の子供を産むかもしれない誰かに嫉妬してるんだ……。次期国王の隣で王妃になる人を冷静に見てるなんてできないんだ!!」
そんな光景を見るくらいなら今ここで別れて遠くで思っている方がいい。
嫉妬で狂う浅ましい姿を王子に見せたくない。
「シアン……シアン、よく聞け」
ぐるぐると嫉妬でおかしくなりそうなシアンの頬を両手で挟んで、王子は紺碧色の瞳でジッとシアンの目を見た。
ゆらゆらと揺れる、水の中のような綺麗な瞳に見つめられてシアンの涙はスッと止まった。
「俺はもともと、男しか愛せない。王になる予定もなかったからそれでも問題はないはずだった。妻を娶るつもりもなかった。だけど今はおまえがいる。俺はおまえを妻として娶りたいと思っている。子供は作れないけれどおまえ以外を娶るつもりはこの先、王になってもない」
王子の告白になんと返せばいいかわからず、シアンは目を見つめたまま次の言葉を待った。
「おまえ以外いらない。おまえを手に入れたくて無理やり抱いた。手付きになればずっとここでおまえと一緒にいられるから」
「王子……でも、そんな……オレは奴隷だから拒否することはできないのに……。手付きにしなくても命令したら……」
「俺は奴隷のおまえを抱いたんじゃない。シアンを抱いたんだ。確かに奴隷だから命令すれば拒めないとわかっていた。もっと段階を踏むべきところを無理やり抱いたんだから信じられなくて当然だ。始まりは酷かったけれど止められなかった。何度も何度も抱いて俺なしじゃいられない身体にして離れられなくしたかった」
王子の作戦は大成功だ。この身体はもうずっと前から王子が与えてくれる快楽を求めている。
「でも本当は……俺がおまえに溺れているんだ。毎晩ここに通ってしまうくらいに」
「嘘だ……」
溺れているのはこっちだ。奴隷だから拒めなかったわけではない。香のせいでも香油のせいでもない。
全ては自分の意思で彼を受け入れたのだ。
そして自分を受け入れてほしいと願ったのだ。
(最初から、惹かれていたんだ……)
身分違いだとわかっていながらその紺碧の瞳に溺れた。金の髪に触れたいと思っていた。気が付いた時にはもう手遅れだった。
「嘘じゃない」
「でもっ、でもオレは奴隷でっ……だからきっと王子の足手まといになる。王子が悪く言われる……。そんなのは嫌だ」
「誰にも何も言わせない。そのためにここのところずっと動き回っていたんだ。両親にも兄弟にも、重臣たちにも、反対されないように説得して回ってた。今日やっと一段落ついたから報告しにきた」
そんなうまい話があるもんか。奴隷が王子のそばで暮らしていけるなんて。
明日、ここを出て行くと決めたばかりなのに。
「……世継ぎは……」
「問題ないと言っただろ。一番上の兄の子を養子にすることにした。将来的にはその子が王になる。そもそも第一継承権は一番上の兄だったんだ。その子供なら誰も文句はないだろ」
「一番上……え……?」
侍女が噂していたことを思い出した。
――第一王子には隠し子がいる。
そういえば第四、第五王子が国王の子供ではないという噂も当たっていた。
侍女には絶対逆らってはいけない。この先この王宮で暮らすならそれだけは守ろうとシアンは心に強く誓った。
「もう国王にも承諾済みだ。すんなり了承されたよ」
「じゃあ……なんの問題も……?」
「何も問題はない。あとは、シアン次第だ」
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