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君のいる世界・1

普通に高校生やってて、親友の敦と学校帰りにカラオケ行って、帰ってきたら「遅い!」って母さんに怒られて、テレビ見て風呂入って歯磨いてマンガ読んで、寝て。 そんな日常は昨日も今日もだいたい似たようなもんで、明日だってきっとそんなもんだと思ってた。 「…xxxxxx!」 何やら聞き覚えのない声が聞こえて、体を揺すられる。 (オレまだ寝たばっかだよ…) と、目を閉じたままオレに触れていた手を振りほどくが、間をおかずすぐに体を揺さぶられる。 そのしつこさに何とか目を開けるが、やたら部屋の明かりがまぶしくってうまく開けられない。 薄目のまま顔を動かすと、見知らぬ赤毛の外国人のドアップが目に入った。 「わっ…!」 ビックリして目を開けると、真っ白なだだ広い部屋に沢山の赤毛の外国人がいた。 オレはその人たちの中心にある魔法陣みたいなのの上にいて、そして周りにいる全員にガン見されていた。 「え…何……何?」 芸能人じゃない一般人のオレにまさかの寝起きドッキリ?? 目は覚めても頭はうまく覚めきらないまま、パニックになって何なんだと疑問ばかりが頭に浮かぶ。 そんなオレを他所に、 「やった…成功です!」 「これで国の平和は間違いありません!」 「ようこそおいでくださいました!」 周りにいた人々は喜んだように大声をあげて騒ぎだした。 余計にパニクって全く動けずにいるオレに、最初にオレの顔を覗き込んでいた男が話しかけてきた。 「……私はこの国の第一王子、バザラガ・シャルロッテ・アラムと申します。突然のことで混乱されているかもしれませんが、どうか話を聞いて頂きたい。あちらに応接室があります。あなたに危害を加えることは絶対にありませんので一緒についてきていただけませんか」 え?王子??なんだそれ?よく見れば格好も王子のコスプレみたいだな?? とか思ってたら、いつの間にか周りがシーンとなってオレの返事を見守っていて、オレは静かに頷くことしかできなかった。 モーゼの十械のごとくザザーっと人々の間に綺麗な一本道を作られ、周りの人々にガン見されながら応接室へと案内されると、途中で廊下の窓から外の景色が見えた。 窓の外には今いる白い建物の続きが延々と続いていて、この建物が見たこともないくらいどでかいものだと知る。 そして空の色が、夜で暗いけど心なしかピンク色に見えて、不思議に思って月を見上げるとなんと月が淡いピンク色をしていた。 呆気にとられて立ち止まっていると「…こちらです」と数メートル先で王子とその従者と見られる人が扉を開けて待っていた。 慌てて部屋へと入り案内された席へ着いて、一息ついてから話を切り出された。 「…えっと。もう1回確認させてもらいますけど」 「はい、どうぞ」 「ここは日本じゃなくて…ましてや地球じゃなくて、なんとかっていう王国で。自然災害やら干ばつやら魔物?だかがひどくって、それを止めるために"異世界から神子を呼び出すと平和になる"という昔からの言い伝えを信じて呼び出してみたところ、オレが出てきたと?」 「そうです」 冗談だろ?というつもりで聞いたのに、そうです、とか真顔で返されてしまった。 真顔っつってもさっきから王子は無表情で表情がピクリともしないんだけど。 寝起きにどんどん予想を超える情報を与えられて、正直わけわからんが、さっきのピンクの月やら周りにいる見たこともない服装の外国人の人々を考えると、これは夢か、王子の言った通り別の世界なのだろうと思った。 ちなみにテーブルの下で夢であってくれと自分の手を密かにつまんでみたが、地味に痛かった。 「…わかんないけど、わかった」 「……はい?」 「…いえ。でもオレ、ただの一般人なんで。神子とか言われても、何もできないんですけど…」 夢か現実か未だにつかめないが、それでもぼーっとしてても話は進まないと思って話を続けてみる。 「異世界に呼ばれたのに言葉が通じるのは神子様の証です。神子様はなにもしなくても、その国にいるだけで平和がもたらされると言われています。なので特別なことをしなくてもこの国にとどまって下さればそれだけでいいのです」 「…そうなんですか?」 そう言えば相手外人さんなのに普通に会話してたな…と思いつつ。 その言葉にほっとしたような、そんなんでいいのかと突っ込みたいような、不思議な気持ちになる。 「…ただ、神子様の言い伝えはこの世界共通で、どこの国でも平和の象徴である神子様を欲しています。ですが、神子様は儀式をすれば必ず応えてくれるわけではありません。…実際に私たちも何百回と儀式を続け、本日やっと成功しました。それほどまでに神子様の存在は貴重なのです。そのため身元が不安定な場合は、他国に狙われたりする可能性があるので…この国では、神子様が現れた場合は呼び出した王族と結婚し、国の名を背負って頂く習わしになっております」 「え…?オレが王子と結婚するってことですか?」 「はい」 突然の爆弾発言に呆然とする。 「え、オレ、男なんですけど…」 そう呟くと、なんでか王子が目を瞠った。 「…男性、ですか?女性かと思ってましたが…そうですか。男性でも、問題はありません」 いやいや、オレさっきから自分のことオレって言ってたし、見た目だって可愛い系じゃなく全然フツーの男だし。 逆にどこをどう見たら女性と思えたんだ。 真顔の王子を思わずジト目で見つめる。 「いや、オレの世界では…っていうかオレの国では同性同士で結婚とかできなかったし。てか王子なのに跡継ぎっていうか…子供産めないし困りますよね?」 「そうでしたか。私たちの国では同性での結婚も認められています。異性同士での結婚よりは少ないですし、確かに王族では王位継承の問題があるので同性婚は聞いたことはありませんが、神子様より素晴らしい人なんていませんので」 「はぁ…」 王子のその言葉を聞いて、あくまで王子はオレとではなく神子と結婚する気なんだな、となんとなく思った。 「…今日は召喚されたばかりでお疲れでしょう。この世界のことは明日からでもいくらでもお話しできますので、今日は一旦お休みしましょう」 そう言われて応接室を出て、長い廊下を歩いて別の部屋へと案内される。 どうやら客間らしいが、キングサイズか?っていうようなでかさの豪華な天蓋付きのベッドに、ジャグジーの風呂やオレの部屋くらいありそうな広さのトイレやら、1人で使うには広すぎる部屋だった。 一般家庭で育ったオレには広すぎて落着けない感じだ。 「神子様、とりあえず今日はこの部屋でお休みください。扉の外には護衛の者がついていますので不都合がありましたら何なりとお知らせください」 「はぁ…」 「では、失礼します」 「…っあの!」 背を向けて歩き出そうとする王子に、どうしても言いたいことがあり声を掛ける。 王子は相変わらずの無表情のまま振り返った。 「あの、スイマセン。とりあえず神子様っての止めて名前で呼んでもらっていいですか?」 「はぁ…ですが、」 「オレの名前は神子様ではなくて神崎信一です。神崎か信一で呼んでください」 「…ファーストネームは、どちらですか」 「信一です。シンでもいいです」 「…シン様、ですか」 「…できれば様も止めてもらいたいですが…とりあえずそれで願いします」 「…わかりました」 それだけ伝えてさっさと部屋に入って1人になろうと思ったが、大事なことを思い出す。 「………ちなみに王子様のお名前は、なんでしたっけ?」 そう聞いたら、無表情な王子の眉毛がピクリと動いた気がした。 「……アラムと申します」 「アラム王子ですね…スイマセン、おやすみなさい」 深々とお辞儀をして今度こパタンと扉を閉めて、大きすぎるベッドの上にドサッと大の字で寝転がる。 さっきまでの出来事をもう1度頭に思い浮かべて、改めて考える。 ピンクの月も、王子の話も何もかも、どう考えても現実味がないし、ワケがわからない。 「…わけわからん時は寝るに限る」 考えたところで分かる気がしないし、現状が変わるわけでもない。 (大丈夫、大丈夫) (目が覚めたら、「変な夢見たな」って思うだろう…) (…あ、でも夢だったら最後にいちいち呼び方直さなくてもよかったのか…) 考えることを放棄し目を閉じると、あまり寝てなかったオレはすぐに意識を手放した。

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