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君のいる世界・4
ピピピ…ピピピ…
規則的な音に、目を閉じたまま音のなる方へと無意識に手を伸ばす。
いつものように音を止めて目を開けると、そこは慣れ親しんだオレの部屋だった。
ガバっと勢いよく起き上がると左腕が少し痛んだが、腕をまくってみてもそこには傷口はなく、さすってるうちに何ともなくなった。
寝てるうちに体の下敷きになってたから少し痛かっただけかもしれない。
よく見たら着ているものも、いつものジャージだ。
周りを見渡すと時計はいつもの起床時刻を示していて、ベッドの近くにはあの日読みかけだった漫画がそのまま置いてあった。
ベッドの脇の充電器にさしたままの携帯を手に取ると、その日付けは、オレがこの部屋で最後に寝た日の翌日を示していた。
「……夢、だったのか?」
それにしてはあまりにも長く、何もかもが鮮明だった。
だってオレは多分あの世界で何ヵ月も過ごしてたし、色んな人との会話も、最後の事件も、事細かに思い出せる。
王子のあの無表情も、抱かれた時のぬくもりも、オレに見せなかった笑顔も、最後の表情だって…
頭の整理がつかないまま動けずにいると、
「信一!遅刻するわよ!」と母が部屋に乱入してきたため、慌てて学校の支度をして家を出た。
母はいつも通りだった。
駅で待っていた敦もいつも通りだった。
学校の友人も、先生も…すべてがいつも通りだった。
なのにいつも通りの日常を不思議に感じてしまう。
あの世界に居続けたかったわけではない…と思う。
帰りたいと思ってたし、オレはあの世界で何の役にもたってなかったし。
けどなんだか胸にぽっかり穴が開いたような、なんとも変な気持ちだった。
その日の夜は、寝たらまたあの続きが始まるんじゃないかとソワソワしながら眠りについた。
だけど気が付いたら朝で、またいつも通りの朝を迎えた。
「…なんだ」と思いつつ、次の日こそなるんじゃないかと思ってソワソワしたけど、やっぱりいつも通りの朝を迎えた。
次の日も、次の日も…
そうして何日も過ごしているうちに、オレはあの世界に行きたがっている自分に気がつく。
朝起きていつもの自分の部屋にいることが残念だったり、寝る前に「夢だったなら続き見せろよ!」と思ってしまったり。
…だけどオレがあの世界に行けることは、なかった。
オレは高校を卒業し、大学に入り、もうすぐ20歳になる。
あれからもう4年も経つのだ。
それでも当たり前のようにあの世界のことを思い出してしまうのはなんでだろうか。
大学に入ってすぐ、生まれて初めての彼女ができたことがあった。
いい雰囲気になって彼女を抱きしめた時、王子と違うその感触に違和感を抱いてしまった。
キスも、その先もする気にはなれなくて…すぐに別れてしまったが、
その後も「いいな」と思える人がいても、どうしても王子と違う部分を見つけては気持ちが萎えてしまう。
(…オレは王子を好きだったのかな…?)
自分はノーマルだと思ってたし、王子はただの国が決めた婚約者だと割り切っていたし、全然そんなつもりはなかったけど…
だけど思い出すのは王子のことばっかりで、特に最後に見た笑顔や焦った顔は、どうしても頭から離れなかった。
「…せめて最後にちゃんとさよなら言って、笑顔で別れてたらこんな風に引きずらなかったのかな…」
1人で帰る誰もいない夜道で見上げた月は三日月で、綺麗な黄色をしていた。
(あの世界では月がピンクだったな…)
またあの日のことを思い出してしまう自分が情けなくて思わず顔を下に向ける。
すると、突然足元にいつか見た魔法陣が現れて、目が眩むほど強烈な光を放った。
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