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第2章  白き海賊船ルナティス  *14*

 柔らかな肌触りを楽しむように、ウルフの手は時間をかけて身体の線を辿っていく。  胸元を滑り、脇腹を擽り、カシスが息を乱すまでそれは続いた。 「ふ……あ……っ」  ベッドに押さえつけられた背がキュンと撓る。  曖昧な刺激だが堪らない陶酔感をカシスにもたらす。 「や……だ、離せ……ッ」 「まだ、これからだろ?」  からかう声音がキスとともにカシスの肌を伝い降りた。手で触れた部分をゆっくりと唇が辿っていく。  前をはだけられた衣服が腕にカシスの腕に絡んでいる。露わになった胸の突起に歯が立てられ、カシスは思わず息を詰めた。 「ふ……、クッ……」  ジンとした痺れが波となって身体の奥を流れていく。緩やかでもどかしさを感じる波だ。  身の裡で拡がる波紋に呼び起こされ、快感がじわりと熱を孕む。  カシスは身を捩ろうとした。そんな動きを咎めるように、ウルフは赤く色づいた突起を口に含む。  ぷっつりと勃ちあがった乳首を舌で転がされ、カシスの背がゾクリと粟立った。 「あ……ん……、やあぁぁぁ…………ッ」 「こっちも反応してるぜ? 触って欲しいか?」  クスリと笑い、ウルフはカシスの下肢へ手を伸ばす。ズボンの合わせを開いて、指先がそろりと中へ忍び込む。 「やめ……ッ、…………ん……っ」  熱を帯び昂ぶりはじめた半身を撫でられ、カシスは眸を見開いた。すぐさま訪れた快感にギュッと眸を閉じる。  淫らな手の動きにカシスはあっという間に高みへ押し上げられていた。  鮮烈な快感に成す術もない。 「今からこんなじゃあ、この先はキツイかもな」  上体を起こしウルフは手を汚す雫を舐め取った。カシスに向け、わざと彼自身が放った白濁を見せつける。 「これだけ感じやすい身体だ。どうなるか見物だぜ」  身体を弛緩させ荒く息をつくカシスを残し、ウルフはベッドを降りた。その眸がひどく淫蕩に輝いている。  ウルフはデスクの引き出しを漁った。お目当てのケースを探り当て手に取る。  掌にすっぽりと収まるほどの小さな箱だった。 「これがなにか分かるか?」  ウルフの手に翳されたものを、ぼんやりとした眸でカシスは見やる。  人の指2本分ほどの大きさのそれは、色こそ愛らしいパステルイエローだが、両端が丸みを帯びた棒状で等間隔に節目があり、羽虫の幼虫を思わせるグロテスクさがあった。 「属に《サナギ》と呼ばれてる。羽化する姿が極上だって話しだ」  意味深に告げられ、カシスは言い知れぬ不安を感じ背を震わせる。  ケースと一緒に取り出したジェルを《サナギ》の上からドロリと垂らす。ウルフの手の中で《サナギ》はクネクネと蠢き始めた。  ウルフがベッドに戻ってくる。無意識に逃げようとしたカシスはベッドの上でずり上がりかけたが上手くいかない。  足首が掴まれ引き戻された。膝を割ってウルフは身体を割り込ませてくる。  閉じられないようにされた膝が、さらに大きく開かれる。  抱え込まれた膝が左右に広げられ、カシスの秘腔が露わになった。ジェルで濡れた指を、ウルフはそこに押し当ててくる。  まだ堅く閉じきった窄まりを指先が擽り、ヒクリと反応をみせた瞬間に中へと突き立てられた。  1本、また1本。  ジェルの助けを借りて、指はクチュンと水音をたて身体の奥へ入り込む。 「く……ん……ッ」  ぐるりと掻き回され、カシスは必死に声を噛んだ。  ぬるつく指が敏感な裡襞を擦る。感じる部分を掠めて、気を抜くとあられもない声をあげてしまいそうだった。  ただ慣らすための行為は緩やかに続けられる。  絶え間ない刺激が心地よさを生み、カシスは羞恥に駆られ漆黒の双眸を潤ませた。  前がゆるゆると勃ち上がる。その根元をウルフの指がきつく握りこんだ。 「ヒウッ……」  痛みに呻いたカシスを見下ろし、ウルフは後腔に突き立てた指を引き抜く。  カシスの腰がふるりと戦慄いた。  中途半端に投げ出されれば辛い。堰き止められた欲望が身体の奥を苛んでいるのだ。  身の裡に溢れかえる悦楽の波を持て余し切ない息を零すカシスを、ウルフの眸は楽しげに見下ろしている。 「許しを乞うなら今だぜ、カシス。俺の前で大人しく身体を開いてみせるか、それとも……」 「―――誰が……ッ」  そんな条件には屈しないと、カシスは気力を振り絞って相手を睨みつける。 「……だろうな」  ウルフは薄く笑った。  頬を上気させ睨みつけられても、恐ろしさなどは微塵も感じられない。 「いつまでその強気が続くか確かめてやるよ」  シーツの上に放ってあった《サナギ》を、ウルフの手が拾い上げる。 「お前はどこまで耐えられる? 《サナギ》の毒に」  ウルフは眸に酷薄な色を浮かべた。  指で綻ばせたカシスの後ろに、ジェルにまみれぬらぬらと光る《サナギ》が押し当てられる。  本能的な恐怖に竦むカシスの中へ、窄まりを掻き分けて《サナギ》は潜りこんできた。とたんにカシスの背がガクンと仰け反る。 「ヒッ! …………ア……ッ」  思わず口をついて叫びが洩れた。 「……クウ……ッ……、ん……っ」  身体の奥を目指し這いずる形を、生々しく感じてしまう。  こみ上げる吐き気を耐えようと噛んだ唇が切れ血が滲んだ。  薄っすらと浮き上がり滲んでいく緋に眸を細め、ウルフはカシスの血を舌で拭い取った。 「《サナギ》を埋め込まれれば、どんな不感症だって音を上げる。お堅い処女も腰を振ってよがり狂うて代物だ。男を咥えこみ身悶え淫乱な性を曝け出すまで、《サナギ》はお前の身体に毒を撒き散らし続ける。快楽という名の毒だ」  ウルフは小さくせせら笑う。 「俺の前でよがりまくって見せな」  遠く響く幻聴のように、カシスは責め苦の中で虚ろにその言葉を聞いていた。

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