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第31話※
「お前が何者かは知らないが、私はここの客だぞ。出て行くのは部外者であるお前の方だろ!」
「だから言っただろ、アカネは俺のものなんだ。貴様が立ち入る余地など無い」
(あ、俺……なに柄にもなく怒ってるんだ)
昂ぶる感情とは裏腹に、なぜか頭は冷静なままだった。アカネが自分のものだなんて勝手なことを言ってまで、彼を奪いたいと思っている。
「チッ、このこと主人 に言ってやるからな」
「良いだろう。責任は俺が取る」
「まあ丁度いいか。そいつとは合わなさそうだと思ってたところだ。金は払わんからな」
「ああ。貴様もあまり遊びすぎないようにしろよ」
フィオの剣幕を見て諦めたのか、男性はふんっと鼻を鳴らして部屋から出て行った。取り残されたアカネは、よく見ると後ろ手に縛られている。
フィオも寝台 に乗り上げると、アカネは身を縮めて壁際へと後ずさった。少しやりすぎてしまったかもしれない。
「……あの男が縛ったのか?」
「そう。あいつの趣味なんだと」
「痛くはないか?」
「ん、平気」
縄をほどこうとして手を伸ばすが、それが腕に触れた瞬間アカネはびくんと大きく肩を振るわせた。
「ぁ……」
「――オレ、いつからフィオのものになったんだよ」
「あれは、ごめん。アカネを誰にも渡したくなくて」
「オレは誰のものでもない。心配なんかいらないからほっとけ――っ!?」
アカネの言葉に、収まりかけていた感情が再び湧き上がってくる。ついカッとなってしまい、彼の足を引っ張って寝台 に転がしてその上に覆い被さった。
「何だよ急に……フィオ?」
「心配なんかいらない? 俺達がどんなにアカネの事を想っているか分からないのか」
「んなの、オレの知ったことじゃない」
「まさかとは思っていたが、本当に身体を売っていたとはな。レノルフェも、アカネにはこういうことをして欲しくないと言っていたんだぞ」
「レノが……?」
いけない。これは口止めされていたのだ。
だけどまだ十分ごまかせる程度だから、話の重要さを伝えるために利用させてもらうことにした。
「もちろん俺だってアカネのことを気にかけている。君はもっと、周りの人が心配しているということに気付くべきだ」
「そんなの、オレ、頼んでない……」
「頼まれたら『心配』にならないだろう。現に今、アカネがあの男に抱かれそうになったのが許せない」
「まだ抱かれてなかっただろ!」
「でも、こういうのは今日が初めてじゃないんだろ?」
自分でも思っていた以上の冷淡な声に、フィオが組み敷いている身体が竦む。
その反応が肯定を示しているのはすぐに分かった。すると途端に胸の奥がもやもやして、いらいらして。自制が効かなくなってしまいそうだ。
「――俺が、上書きしてやる」
「は? えっ、ちょ」
アカネの腹の辺りに手を這わせると、くすぐったように身を捩った。
「あいつにどこを触られたんだ?」
「フィオには関係ないだろ……っ」
「関係なくない。この綺麗な身体に赤の他人が触れるなんて嫌なんだ」
「オレは綺麗なんかじゃ……ぅ、あ…待っ」
昨日のように肩口に顔を埋 めるが、今度は首筋の皮膚が柔らかいところに口づけた。そこを何回か強く吸い上げ、紅い印を残す。
「アカネは綺麗だ。君がそう思えないのなら、俺が清めれば良いだけの話だろ。――それで、どこを触られた?」
抵抗は叶わないと思ったのか、たどたどしく告げられる。
「……む…胸の……」
「ここの?」
胸の中央に手を置くと鼓動が直 に伝わってくる。安静時の倍はありそうな速さだ。
手を少しずつ左に動かしていくと、そこの尖りを掠めたのと同時にアカネが小さな声を上げた。
「あっ、そこ……ぎゅぅって、され――」
「こんな風に?」
「い、…ぅん……あ、あと……太腿、撫でられた…ぁ」
乳首を指で摘まみ上げたら、痛みを感じたのか頬を紅潮させたアカネの顔が僅かに歪む。
力を弱めながらもそこへの刺激は止めずに、彼のズボンの中へ右手を忍ばせた。他の男が辿った所をなぞることで、アカネに触れた男の痕跡をフィオのものに置き換えたかった。
「そんな、直で触られたんじゃ、なぃ…」
「他の輩 が触ったかもしれないじゃないか」
「んなこと言ったら、キリがないだろ」
「そうだな。でもどうせ上書きするなら、全身くまなくやった方が良いだろ」
「さっきから、ぁ…上書きって、何……? んんっ」
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