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第33話※
噛みつくように口付けて、アカネの中に舌を差し込んだ。頬の裏や口蓋を舐めるとくぐもった声が漏 れてくる。
「っは…もっと、舌出せないか?」
「ん、ぅ――んむ」
消極的だったアカネもフィオの言葉には応えてくれた。差し出された舌を吸い上げ唾液を啜る。それは不思議と、甘かった。
「ふぅ…ん、んん…んく――ぷは、ぁ…」
「アカネ……次は、分かっているだろ?」
「ん……そこに、香油がある……」
寝台 脇の小さな机には陶器の瓶が置いてあった。それを手にとり栓を抜くと、花の甘い香りが広がってくる。
「っ! 冷てーだろ」
「ごめん」
初めの方こそ身体が竦んでいたアカネも、下腹部にたっぷりと垂らした香油を塗り込むように手を動かしていると、声色が変わってきた。
「ぅう…あ……ん」
「指で慣らせば良いんだよな?」
滑りを纏った指を後孔に押し込みながら、多くはない知識をたぐり寄せる。敏感な場所を探って、中で指を折り曲げたりした。
その度にアカネの身体はおののき、必死に押えようとしている喘ぎ声が途切れ途切れに溢 れてくる。
「ひぁ!? やぁ、そこ…っ、ぁああ」
「ここか?」
「やっ、やめ…、ぁん、あ」
浅いところにある、こりこりとした部分を掠めた瞬間アカネの身体が大きく跳ねる。悲鳴のような声を上げて、体内からフィオに絡みついてきた。
「今のアカネの身体、すごくいやらしいぞ」
「うっせ…ぁ、見んな、よ…あぁ」
「見ないとどこが良いのか分からないだろう」
「え? ぅあ…くっ、キツ……」
入り口が綻んできたのを見計らって、指を更に二本アカネの中に埋め込んだ。さすがにまだ早かったようで、内壁が引き攣ってる。
それでも無理やり抜き差しを始めて、さっき見つけた弱点を気まぐれに責めてみた。
「ぁ、ふ…ぅあ…っやぁあ、ぃや、だ…ぁ」
「さすがだな。嫌だと言っても、ここはだんだん緩んでいくぞ」
ああ、こんな意地悪するつもりではなかったのに。
アカネに身の危険を教えてやりたかっただけ、フィオの証を残したかっただけで、こんな風に怖がらせるはずではなかった。
「んぁ…フィオ……オレのこと、嫌いになった……?」
「なぜそんなことを訊くんだ」
「だって…、オレ、こんなに……やらしくて……っ」
「アカネが嫌いな訳ないだろ。ただし、そのいやらしい身体はもう俺以外の誰にも見せるなよ」
フィオは指を引き抜いて自らの昂ぶりを取り出した。そしてアカネの足を肩に掛け、ぱくぱくと収縮を繰り返す後孔に押し当てる。
「あ、待っ……ぃあ、あァああぁあっ!」
一息に身体の奥まで開かされたアカネは、背中を大きく反らせてびくびくと打ち震える。中は熱くて溶かされてしまいそうだ。絡みついてくる肉襞が中へ中へと誘 ってくるようで、その身体を深く突き上げてしまう。
「や、あ、ぁああ――そんな…はげし、っ……」
「良いか、これが俺だ。今アカネを犯しているのは俺だ。これからも、この先も、俺だけだ」
きっと今の自分は、独占欲の塊となった醜い姿をしている。
何度も何度も腰を打ちつけ、香油のせいでぐちゅぐちゅと音がなるそこにフィオの激昂をぶつけた。
「ひ、ぃっ…ぁぐ、ああぁ……あ、フィ、オ…」
「アカネ――俺が、怖いか?」
「へ……? ぁ、んんっ……んぅ、う」
自分で尋ねたくせに答えを聞く勇気がなくなってしまい、キスで口を塞ぐ。
舌を絡め取り、舌先に向かって小刻みに甘噛みしていくと、締め付けがさらに強くなった。
それを振りほどくようにぎりぎりまで引き抜いてから、最奥を貫く。
「んーっ! んふ、ぅ――はぁ、あぁァあッ」
「ごめん、こんな風にしか出来なくて。……俺、今すごく怒ってるんだ」
「ぁ…オレが、ハンスの店で働いてる、から?」
「違う。これまでにアカネを抱いた奴らが、心底憎いんだ。でもこういう感情は、普通アカネが持つものだろう? 人のために怒るなんてしたことがないから、どうすれば良いか分からないんだ」
改めて口にしてみると、みっともないものだ。アカネが大事で愛しくて、その大きすぎる反動を受けた怒りが完全に理性を超えていた。
「なんだよ、それ……シットじゃねえの」
「嫉妬?」
「そ…だよ。フィオがオレのこと好きだから、そんなに苛ついてんだろ、っ」
「好き……アカネが、好き」
独り言のように呟いて、その言葉を噛み砕く。
――そうか。これが嫉妬で、アカネがどうにも気になってしまうのは、好きだったからか。
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