もう、諦めよう。 　高校教師・結城 拓（ゆうき たく）は、そう思っていた。 　いや、そう考えようと、自分の想いに必死で蓋をしようとしていた。 　よく晴れた3月の日。 　卒業式が行われた。 　3年間担任を受け持った、梁川 遥人（やながわ はると）も卒業する。 　だが、拓はやはり諦められなかった。 　最後の賭けに出るつもりで、遥人を人気のない教室へ呼び出した。 　1年生の遥人が入学してきた時、拓の胸は歓喜に満ち溢れた。 　あぁ、遥人。 　久しぶりだ。 　本当に、俺の元へ帰ってきてくれたんだな。 　15年ぶりの遥人は、少し変わっていた。 　ちょっぴりシニカルな笑み。 　ちょっぴり着崩した制服。 　いいさ、少しくらい変わっていても無理はない。 　要は、俺のことを思い出してくれるかどうかだ。