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「じゃあな、葵斗。また明日」  学校の最寄り駅の階段の下。零央はここから電車に乗り、僕は駅をスルーして家へ歩いて帰る。  傘を閉じて駅の階段を上がる零央の後ろ姿に背を向けて僕は家の方向に歩みを進める。が、すぐにその足取りを辞めた。振り返りさっきまで零央と二人で歩いてきた道を戻る。それも早足で。雨からの憂鬱さも、水溜まりの鬱陶しさも今は感じない。ただ目指す目的地に向かって、僕は真っ直ぐに歩んだ。  なんとなく、今じゃないと駄目な気がした。確信的な何か根拠がある訳じゃない。ただ本能が、僕を導いている気がする。これを逃すと本当に僕は何にもなれず一生を終えてしまう。大袈裟でなく、そんな気がしたんだ。 「はぁっ、はっ、はっ……」  そこまで急いでいないのに、今しかないと無意識に自分自身を追い詰めているプレッシャーを感じているのか息が乱れていた。  それに気づいたのは、目的地が視界に現れた時だ。 「こ、ここ?」  肩を上下に動かしながら必死に酸素を取り入れて脳を回転させる。自分の記憶と目の前の実物を照らし合わせるだけがやっとだった。  写真で見たよりも、その外観は廃れていた。アンティーク風のお洒落なカフェ……というより、幽霊でも出てきそうな呪われた洋館の方が説明に相応しい。雨のせいでどんよりさが増して見えたのか、不気味さも覚える。 (ここ、本当にカフェ?中に絶対人いなさそう……)  それでも僕はその店の扉まで近づく。  自分の何処に此処までの行動力があったのが不思議にも思わず、吸い込まれるように真っ直ぐ進んでいた。  傘を畳んで、当たり前のように置く場も無い為、邪魔にならないように入り口らしい扉の横に立て掛ける。  一体何の植物か、名前も知らない沢山の蔦に覆われかけている扉の取っ手を持ち手前に引く。

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