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Ⅴ
「葵斗はさ。家で普段何してんの?」
「何って……んー。何してるかな?」
「俺が聞いてるのに、知らねぇよー」
零央の表情は、傘の並ぶ距離で見えづらいけどきっと笑っているんだろう。
「趣味とか無さそうだよな葵斗って。あ、もう三年なったしひたすら受験勉強?」
「勉強はそんなにしてない。目指してる大学も無いし」
夢が無い。趣味も無い。
生き甲斐にしていることも無ければ、熱中していることも無い。
刺激的な何かに出会いたいとは思っている。
そう思わせたのは、熱中できる写真に出会った兄さんだ。羨ましいと思うのに、中々見つからないその何かは、求めすぎると駄目なんだと思いもう、探すことも辞めてしまった。
「零央は?趣味とかあんの?」
「ん?俺?俺はねー」
零央は、なんだか照れ臭そうに話し始めた。
「俺、趣味というか、夢があって。まぁ、分かりやすく言うとデザイナーなんだけどな」
「デザイナー?」
「そ。俺、服とかデザインして形にするのが好きなんだよ。見た目に寄らずで、ちょっと恥ずいんだけどさ」
「へぇ……」
零央の意外な一面を知れて、僕は驚いた。そして羨ましいと兄さんに対して同じ感情を持った。
(いい、な……)
「あ、誰にも言うなよ?こんな話したの葵斗が初めてなんだから」
歩みを止めて、傘から覗かせた零央と目が合う。
「な?」
「うん。言わないよ。いつか、見せてね。零央のデザインしたの」
「いいぜ。楽しみにしてろよ」
夢がある人は、やっぱり輝いている。
高校を卒業するまであと9ヶ月余り。もっと求めてみよう。自分のことに対して貪欲になろうと夢ある周りに動かされる。
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