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彩られない世界

お題:『いってらっしゃい』『モノクローム』 ◇ 起きたら5時を過ぎたところだった。 冬の朝、一応日が昇っているとはいえ室内はまだ少し薄暗い。半分開いたカーテンの隙間から差し込む光は薄くて白んでいる。 俺はベッドから半身を起こしてそれをぼうっと眺めていた。 無意識に隣に腕を伸ばしてみる。俺の左、ぽっかりと開いた空虚は撫ぜてみると冷たい。 夜の気配を残した空気は俺と同じように未だ目覚めきれないかのようだった。 まだ眠っていて、彩りを失っている。目に映るものがグレーがかる。起きるだけでこんな気持ちになるから朝は嫌いだ。 外が明るいのか暗いのかわからない、自身寝てるのか起きてるのかわからない。 境目が曖昧になって夢を見続けているような世界。時間がないまぜになって、朝の始まりというよりか夜の続きのように思えた。 そう思いたかった。 「じゃあ」 寝ぼけの延長上にいる俺を呼び戻したのは彼の声だった。 頭を動かすとドアのところに恋人の姿を見つけた。 ……今日も好きだなあ。 先程まで見ていた味気ない世界が途端にぱっと鮮やかに色付く。彼の存在は愛おしいと共にとても眩しい。 俺がいるのは夢ではなく現実だと思い知らされる。 「……ああ。うん」 「だいじょぶ?眠いなら寝てていいよ」 「ん…。大丈夫」 優しい、俺の、恋人。 俺は彼のことが大好きだ。恋している。愛している。 彼に見惚れるだけで、昨夜の熱を思い出しそうだった。 危ない状態になる前に俺は立ち上がった。 彼がうちに泊まった翌日はどんなに眠くても玄関先でお見送りするって決めている。だって恋人っぽい。 「……いってらっしゃい」 「おいおい、会社に行くわけじゃねーよ」 知ってる。これからお前は始発に乗って家に帰るだけだ。 そんなこと知ってる。いちいち言うな。 「あはっ。そうだった。じゃあ、……またね」 「おー。また連絡する」 「ん……」 待ってる、という言葉は頭の中だけで。 別れ際のキスをせがめない自分が情けない。 彼はドアの向こうの朝日へと溶けていく。 その瞬間、ぎらっと焼き付くような銀色が太陽に反射し俺の目を刺した。すっかり慣れた痛みだ。 そのうち無機質で重い音が鳴り響き、避けられない現実が俺と彼を隔てた。 「いってらっしゃい……」 俺は閉まりきった扉に呟く。 いってらっしゃい。気を付けて。 俺の元へと、無事に帰ってきますように。 ああ、また世界から色が失われていく。 モノクロに満ちた世界で、彼の左手薬指の銀色がいつまでも俺の瞳を灼いていた。 ー了ー

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