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夢のような出会い(プロローグ)

一月 「ふ、っ……ぅ、ひっぐ……ぅう」  彩りのあるネオン街が滲んで見える。普段は歩かない道のりを覚束ない足取りで一歩二歩進んでは、三歩目には壁か何かにぶつかってどこかを打つ。そんなことを繰り返していたら身体中が悲鳴を上げていた。通り過ぎる人は僕を見ては嫌そうな顔をして避ける。きっとそれがいい。酔っ払いだと思われてても僕には今、邪魔でしかない存在だ。  ゴンッ。今度は電柱におでこを強打し、そのままアスファルトに蹲み込む。 「い、たた……ぁ……っ」  足元から冷気が上ってくる。今日は温かい一日ではなかったのかなんて思うけれど、火照った体や混乱した思考がだんだん収まってくる。  そのせいかどんどんとクリアになっていく頭では途端に先ほどのことが再生された。  何度かこっちを見るが、作った笑みを浮かべながら距離を置く女性。 「(Sub)だって幸せになりたい……」  そんな言葉が出た。声に出すつもりはなかったのに。  同じ属性だとしても普段は気にならないもの。なのに何故、恋愛事になるとこんなにも引かれてしまうのだろうか。  最近、泣くことが増えた。昔から泣き虫だけど、ここ一週間くらいのは絶対違う。一人になると急に泣きたくなってくる。特に夜は嫌いだ。寂しさも余計に感じる。  枕に顔を埋め、声を押し殺して泣いたとしても腫れぼったい目のせいで朝の洗顔にどれだけ時間がかかるか。 ──やっぱり、パートナーがいないから? 「ひっ、ぅっ……ぅ……」  ぼたぼたと大粒の涙が膝の上に水玉を作っていく。  考えが極端になっているのは分かる。でも、僕ら(Sub)は彼らがいないと…… 「お兄さん、大丈夫?」 声が頭上から降ってきた。 「……えっ?」  顔を上げると、人がいた。視界が滲んでよく見えない。  袖で涙を拭いてからもう一度見る。つるつる卵のような白肌に金色の髪に後ろからポニーテールが見えた。 (女の人……? でも、とっても綺麗な人だな)  その人は膝を曲げ、同じ目線になっていた。ピンク色の瞳が宝石みたいに綺麗でつい見とれてしまう。  眉を八の字にしてるが、怪訝なそれでは無かった。 「大丈夫? どこか痛い?」  声の高い女性だ、そう認識しても今は体全体が痛くて動けない。それに親切心を無視することなんて出来なかった。  痛くないです。鼻水で鼻が詰まっていた。上手く話せない。 「立ち上がれる?」  手を差し出され、頷いて自分の手を乗せた。 (手が大きい?)  僕の身長は百七十にも満たないし、足は二十五センチだ。手も小さいせいで学生の頃の同級生と会った時には大きさ比べをされてしまう。それでも、男と女の平均や大きさは多少異なるはずだ。そんなことを考えていると柔らかで滑らかな手に包み込まれる。 (気持ち良い……)  ひんやりしていて、自分が熱くなっていたことに恥ずかしさを覚えた。それに誰かの手に直に触れるなんて久々だった。  上に引っ張られ、膝をつく。立ち上がったら後でお礼を言わなくては。自分が先ほど振られて泣いていたことは一旦忘れ、そう考えていた。 「……っぅ……!?」  足に力を入れた時、下腹部に違和感を感じた。腹の重さとは違う、水分が溜まったような重さだった。 「お兄さん、大丈夫?」 「……ぁっ、……!!」  呻き声を上げた僕を心配してくれた優しい女神さん。しかし、手を添えられた場所は悪くもその辺りだった。僕の中で一番目立つのはその腹なのだから。 (やっぱり女の人は悪魔だ……) 「ふぁ、っ………!!」  下へ下へと溜まってくる熱い感覚に気が狂いそうだ。阻止しようと股を擦り付けるが、そう長くはもたないだろう。 (どうしたらいいの? どうする? どうする?)  お礼を言って、走って……でも、近くにお手洗いなんかあるのか?  行動パターンを考えてみるが、もう限界は近かった。 「……もしかして、お兄さん……。おトイレしたい?」  おといれ。排する場所。今したい行為。  関連する言葉が一つ一つ浮かび、頭の中が反芻される。 (ダメ、目がぱちぱちする……)  動けるのに動けない。矛盾し、理性が途切れそうになっているともう片方の手が下へと移動する。ゆっくりと大きくて柔らかい手が熱いそこを包み込む。 「………今、ここでたーくさん、しーしー、してもいいよぉ?」  悪魔で天使のような甘い声が耳元からする。最後の一音が消えた時、花畑が見えた。  ピンクや黄色、緑や白の綺麗で青い鳥が飛んでいる穏やかなお花畑。 甘くて痺れて、脳が蕩けた。 びちょ……びちょ……っ、しょ……っあぁあああ……!  先端から生暖かいものが漏れる。丸太の太腿に垂れ、膝、脹脛に流れ落ちる。最初こそ勢いが弱かったものが、強くなって止まらない。 「ふぇ、ぁ……見ない……でぇ……っ!!」  必死で股を動かすが、気持ち悪くも気持ち良い快感で、 (おかしくなる……!) 「あ、……っ、ぁあ、あっ……!!」  赤子のように喃語しか発せることが出来ず、最後の一滴まで漏れてしまった。 (どうしよう……知らない女性の前で僕……!)  熱くなった体がどんどん冷えていく。べちゃ、と踏んでしまった水溜りも冷えていた。 「……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……。僕、もう帰ります……っ!!」  頭を下げ、その場を去ろうとするがぐんっと止められてしまい、吃驚する暇も無く女性の胸の中に引き寄せられた。ほど良く硬くて柔らかい。ふんわりと花の香りがした。 「良い子、良い子ぉ。しーし、よく出来たね」 (いい……子?)  最初は頭を撫でられたのがよく分からなかったが、何度も「良い子、良い子」と優しく囁かれ、目頭が熱くなり涙がポロポロと出てくる。 (気持ち……いい、な)  久しぶりに触れた人肌に安心したのか、僕はそのまま目を閉じた。

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