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第1話 最悪な出会い

人っていう生き物は、まず何でも見た目で判断しやがる。 どんなに美味い食いもんでも、見た目が悪けりゃ手を付けない。 性格の良い店員ばっかの店でも、外観が悪けりゃ客は来ない。 人の悪口を言わない善人だったとしても、外見が悪けりゃ慕われない。 大事なのは中身だとかよく聞くが、あれはただの綺麗ごとだ。 特に嫌われ者の俺は、そう思っている。 「ねぇあの子、米田(よねだ)さんとこの子じゃない?」 「やだ。ホントだわぁ……」 「親御さんは真面目な人なのに、どうして息子さんだけあんな不良になっちゃったのかしらねぇ~?」 「親御さんが真面目だったからこそじゃないのぉ?グレたのよ。反抗期ってやつよぉー」 別にグレたつもりもなければ、反抗期だったわけでもない。それにあの頃は、誰かに迷惑をかけたことも無かった。 それなのに、いつのまにか俺は近所から問題児扱いをされていた。 勿論、そこだけじゃない。 「ねぇ……米田君こっち見てない?」 「シッ!危ないからあっち行こう」 「オイ、米田学校来てるぞ」 「相変わらずこえぇ」 「バカお前!殺されるぞ」 学校の奴等なんて、俺を見るだけで息を呑んでいた。 まるで殺人鬼でも見るような、そんな目で。 原因は分かっていた。 まるで鷹みたいな鋭い目付きに、無愛想な顔。 口下手で、ほとんど誰とも喋らなかった俺の中身を知る奴なんて、一人もいなかった。 「クソッ……俺が、何をしたってんだ」 毎日歩くだけでビクビクされ。目が合っただけで逃げられる。 せいぜい俺に近寄ってくるのは、俺と同じ見た目も中身もチャラい奴等ばかり。 でもいつのまにか俺は、そいつ等と一緒にいる方が楽になってた。 そいつ等みたいにバカになって遊んで、美人とヤりたい放題しているほうが楽しくなっていた。 いつしか高校を卒業し、働くのも大学に行くのも嫌だった俺は。髪を金に染め、耳と口にはピアスを開けて、自由に遊んでいた。 毎日ポケットには煙草とコンドームを常備し、夜は知らない女と寝て。捕まらなければダチと夜を徘徊した。 他人を気にせず、自由気ままな。まるで野良猫のような生活はすぐに癖になっていった。 だが、たまに一人になるといつも思う。 俺は一体何がしたいんだと。 「あぁ~クソッ。マジあの女腹立つわぁ」 「おっ、なんだ竜二(りゅうじ)?また女にフラれたか?」 「チッ。生でしようとしたら殴られたんだよ」 「あひゃひゃwwマジかよww」 「米田ぁ~そりゃあ殴られるわぁ~w」 「ア?つうか誘って来たのは向こうなんだけど?なんで俺が殴られねぇといけねぇだよっ!クソが」 「まぁまぁ。そうだ!じゃあ今からキャバにでも行くか?」 「金がないってぇ~」 同じ境遇で俺と同じように暇を持て余している猿山、犬山、鳥山、はほぼ毎日のように遊びまわっている俺の仲間だ。 三人も昔から問題ばかりを起こしていたらしく、猿山なんかはすでに親からも見捨てられてしまったらしい。 高校を卒業して一人暮らしをしている俺は、未だ親から金をせびれているだけまだマシな方だろう。 「チッ、次は金でも出して無理矢理犯すか」 「うっわ。竜二君さいてーww」 「しかもそれ親の金だろ~wwマジさいてーww」 「うるせっ、溜まってんだよ」 缶ビールを飲みながらゲラゲラと笑い飛ばす猿山達に対し、俺は真っ暗になった空を見上げ。煙草を吹かしながら発散しきれなかった性欲を静かに抑える。 今は確か夜中の三時。 俺達の声はきっと、騒音と言っていいほど煩く響き渡ってるだろう。 気が付けば足元には俺が吸った煙草が何本も転がり、完全に消えていない火は暗闇の中でずっと白い煙を漂わせていた。 だが、それでもそんな俺達を注意する奴なんて誰もいない。まぁ運が悪ければ警察が来るくらいか。 男も女も老人も、皆見て見ぬ振り。 せいぜい俺達をゴミ虫でも見るような目で睨みながら、ブツブツと文句を垂れるくらいだ。 今ではこの顔が、いい人避けになって便利すら思えてくる。 それなのに。それでも俺の心は未だスッキリしなかった。 通り過ぎていく奴等を見る度、俺の胸は小さな針が刺さったようにチクリと痛んだ。 それが余計、イライラを募らせていく。 「チッ。オイ今からカラオケ行くぞ。イライラして仕方ねぇ」 「おっ!竜二のおごりか?」 「なら行こうぜ~」 いつのまにか俺のおごりだと決めつけ、さっさとカラオケに向かおうとする猿山達の背中に蹴りを一発お見舞いしてやろうと、咥えていた煙草を捨てた時だった。 「おっ!……美人はっけ~ん」 仕事帰りか、スーツ姿の女性が自動販売機でコーヒーを買っている姿が目に入った。 しかも胸がでかいうえに顔も美人、まさに俺好み。 「なぁ猿山、あの女よくね?」 「えっ?どれ?おっ!マジ美人じゃん!」 俺と猿山の会話が聞こえたのか、先へ行こうとしていた犬山達もすぐさま引き返して女を食い入るように見つめる。 「ククッ、どうせならあの女もカラオケに連れて行こうぜ」 「いいねぇ~」 この頃女で失敗を繰り返していた俺達は、まるで獲物を見つけたハイエナのごとくその女の後ろに回り込み、逃げ場のないよう囲い込んだ。 コーヒーを飲んでいた女もこの状況に気付いたのか、小さな悲鳴を上げて身体をすくませた。だが逃げ場がないため、背中を自販機にくっつけたまま俺達四人を怯えた目で見つめている。 「なぁお姉さん、こんな夜中に一人で危ないよぉ~?俺達が家まで送ってあげるから、ついでに一緒にカラオケにでも行かない~?」 上から女の顔を覗き込むように近づくと、眉間に皺を寄せながらも涙目で女は視線を逸らす。 その初々しさが余計たまらない。 「ねぇおね~さん~?いいでしょ?」 「俺達と楽しい事しようぜぇ?」 ジリジリと詰め寄り、調子づいた犬山が女の肩に手を乗せると。女はたまらず大声で助けを呼び始めた。 「誰か助けて!!」 と。 きっとこれが少女漫画なら、絡まれているヒロインを助けに来るヒーローが現れるだろう。 不良Bの俺達はヒーローにボコボコにされ、それでおさらばだ。 でも現実はそんなに甘くはない。 皆、他人よりも自分だ。 そう思っていた。 なのに。 「ね、彼女嫌がってるよ?」 その男は、夜を照らす星のようにキラキラした笑顔で俺達の前に現れたのだ。

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