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第316話

「重いですよね。ごめんなさい」 今にも泣き出しそうな顔で、それでもふわりと微笑む里見に、山岡は静かに首を振った。 「巻き込んでしまってごめんなさい」 「いぇ…」 「背負わせてしまってごめんなさい」 「里見先生…」 「それでも山岡先生なら。貴方なら、黙って受け止めてくれるような気がして」 甘えてごめんなさい、と繰り返す里見に、山岡は深く息を吸い込んで、ゆっくりゆっくり吐き出した。 「オレは…」 「はい」 「オレは、多分、どこかでは初めから分かっていて…。でも、どこかでは少しだけ、どうかオレの見当違いであって欲しいって…思っていて」 スゥと目を伏せて、風に髪を遊ばせたまま、山岡は小さくこうべを垂れた。 「専門外のオレが、半端な知識で当たりをつけただけだからって…。ちゃんと詳しく精密な検査をしたら、違う答えが出るんじゃないかって。だから…」 「山岡先生…」 「だけど、もしも当たってしまっていたら、それはそれできちんと受け止める覚悟で、貴方に指摘をしたんです」 「山岡先生」 「だから、謝ることはありません。それよりも」 貴方だ、と言う山岡に、里見は儚くか細く微笑んだ。 「やっぱりかぁ、って」 「里見先生…」 「まぁ、そうだよなぁ、って。はい」 「里見先生…」 「ショックは、ショックですよ。そりゃ、もう人生の一大事。ものすごい衝撃です」 あはっ、と笑う里見は、それでも足掻いてもがいて限界まで目を逸らし続けた結果、たどり着いた結末に、今は真っ直ぐ目を向けていた。 「私も。違ったらいいのにな。別の診断名が付いたらいいのに、って。何度も何度も期待して。頭部MRIや脊髄MRI、血液検査に髄液検査…。いっぱいいっぱい可能性を見出して、1つ1つ否定されていって。筋電図検査までやってみて…」 「………」 「どうか、どうか、違いますように、って。祈るように、思っていたんですけど…」 「里見先生」 きゅぅっ、と目を細める里見が、本当は誰よりも、山岡よりも、自問自答を繰り返し、受け入れ難いその難病の名を、どうにかこうにか自分の中に落としていったんだということが分かった。 「だけど、ついちゃいましたね、診断名」 「っ…」 「私、今の医学じゃぁ治す手立てが見つかっていない、対症療法しかない、難病…患者でした」 はは、と笑う里見だけれど、その顔はくしゃりと歪み、ツゥーッと一筋、透明な雫が目から零れ落ちた。

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