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第318話

そうして山岡が里見との逢瀬を果たしている一方で、日下部に誤字の指摘を置き土産に、医局に残された原は、大きな伸びをして椅子を軋ませていた。 「ふぁ~、やべ。トイレ行きたくなった。トイレっと」 不意に催した尿意に、カタンと椅子から立ち上がる。 パタパタとサンダル履きの足音を響かせて、医局を出て廊下を進み始めた原は、ただなんとなく、廊下に面した大きな窓から外を流し見た。 「ん?あれ?山岡先生…?」 ちらりと視線を向けた、窓ガラス斜め向かいに見える連絡通路。ひらりと白衣の裾を靡かせて、スタスタと歩いて行くのは、見間違えようなく山岡だった。 「あ~、あんなところにいた。日下部先生、全然方向違いですよ~」 山岡の行き先を気にする様子で、結局VIP棟に向かった日下部を思い出して、ぽつりと呟く。 「それにしても山岡先生、そっち、非常階段しかない…」 通路の先を曲がれば緩和病棟があるけれど、山岡の姿が真っ直ぐ消えていった方向は、非常階段ではなかったか。院内の見取り図を思い浮かべて首を傾げる。 なんなんだろう?と不思議に思いながらも、尿意を思い出してトイレへと足を踏み出そうとしたその時。 「えっ?あれはもしや!玲来さんっ!」 山岡が通過していった連絡通路を、後から追う形で、ただいま原がご執心中の、里見玲来が歩いて行った。 「マ~ジ~か。偶然、ラッキー!…偶然。偶然?」 お姿発見!と輝いた原の目が、やはり山岡と同じように、連絡通路の先を直進していった里見の姿を捉えて、完全に怪訝なものになった。 「え…?だから、そっちには非常階段しか…」 ガバッと窓に飛びついて、べったりと両手を張り付けて連絡通路を見つめる。 「えっ?何?2人は、えっ?えっ?」 ポコン、ポコン、と頭に浮かぶクエスチョンマークをいくつも弾けさせて、原は完全に挙動不審者になっていた。

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