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 オレが尚ちゃんと出会ったのは、3歳の時。保育園で一緒になった。  すぐ友達をからかったりぶったりしてしまい、少し孤立気味だったオレに、固い砂山の作り方を教えてくれたのが始まり。  尚ちゃんの家は、まあ言ってしまえば金融ヤクザのようなもので、裕福で、一方オレの家は母子家庭で、貧乏だった。  仕事のために家を開けがちだったうちの母親を気遣って、尚ちゃんのお母さんはよくオレを預かってくれた。  尚ちゃんの家で食べるごはんはおいしくて、『おかあさんもいっしょならいいのにな』とよく思っていた。  そして尚ちゃんは、『おれも、りょーすけママといっしょにたべたい』と言ってくれた。  小学校は、オレは絵に描いたようなバカなガキで、逆に尚ちゃんは、頭もいいし学級委員をやっていて、先生たちから信頼されていた。  でも、常に一緒にいるオレは尚ちゃんの本性を知っていて、尚ちゃんは裏で、クラスの気弱な奴からものを取ったりしていた。  いつもうまく口止めしていて、いじめられた奴が先生に言っても『松田くんがそんなことするわけありません』と言って、取り合わなかった。  ある日オレも、真似して別のいじめられっこから物を取ろうとしたら、喧嘩になって、最後は普通に殴って取った。  そして、先生に怒られた。  尚ちゃんは、『バカだなー』と言って大笑いしながら、誰かから取った消しゴムをくれた。  中学の入学式の帰り道。  尚ちゃんの家で遊ぶ約束をしていたのに、尚ちゃんが無理って言い始めて、ムカついて口論になった。  そしたら尚ちゃんが、オレの胴体を本気で蹴った。  オレは吹っ飛んだ。そして、手をすりむいた。  誰かと喧嘩して怪我なんて一度もしたことなくて、びっくりして、本気の取っ組み合いになった。  尚ちゃんは本当に強くて、いつもならすぐ終わらせられる喧嘩が全然終わらなくて、ふたりともズタボロになった。  新品の制服が泥だらけで、それでなんだか急に笑えてきて、ふたりで大笑いした。  尚ちゃんが他人に手を出すところなんて初めて見たけど、なぜか、『初めてがオレで良かった』と思った。  尚ちゃんは喧嘩も強いのだと、このとき初めて知った。

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