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 崩れるようにベッドに倒れ込んだ礼央に、声をかける。 「大丈夫? 乱暴にしちゃった」 「……ん、平気」  目はうつろで、でも、確かに俺を探しているようだった。 「ここだよ」  隣に寝転び、そっと手を握ると、ようやく焦点が合ったらしい茶色い瞳と視線を合わせた。  不安そうに揺れている。  俺は握った手に少し力を込めた。 「好きだよ、礼央。可愛いから好き。好きっていっぱい伝えてくれたから好き。それにね」  ちょっと体を寄せ、額に口づける。 「俺の本性を見抜いてくれたから好きだよ。自分でも気づかなかった。責任感にとらわれて、相手の欲しそうなことを選んでたなんて。でも言われてみれば納得」  礼央が、背中に手を回してきた。 「責任感っていうのは、昌也さんの優しさで、作り物の親切とかじゃないと思います。でも、自分のことは二の次みたいなのじゃなくて、もっと自分本位でも……オレに対しては素でいてくれたらいいのにって、思いました」  ふいに、両親の葬儀を思い出した。  ざんざん降りの雨の中、出棺する霊柩車を眺めながら、『悲しくならなくちゃ』と思った。  本当は全然実感もなくて、気持ちを持て余していたのに、死んだ親のためにも、来てくれたひとたちのためにも、悲しんで泣かなくちゃと思っていたのだ。  その日から俺は、『正しいこと』だけをしようとしてきたのかも知れない。 「礼央、好きだよ。俺のそばにいてくれますか?」 「はい、います」 「いっぱい甘えていいよ」 「じゃあ、昌也さんも、わがまま言ったり、嫌なことはちゃんと自分の言葉で拒否したりしてください」  面食らってしまった。  相手を傷つけないように……ではなく、自分の心に正直な言葉マイナスなことを言う勇気を持てと、多分礼央が言いたいのはそういうことだろうなと思った。  礼央は、子犬みたいに顔をすりつけながら、ぽつぽつと言った。 「疲れちゃったら、オレにわがまま言ってくださいね。昌也さん、きっとたくさんのひとに慕われてるだろうなって思うから。期待に応えるの、大変そう」  俺は、クスッと笑って言った。 「じゃあ、わがままで甘えちゃおうかな」  はーっと長く息を吐きながら、許可も取らずに礼央の体を抱きしめる。  自分本位にキスをして、好き勝手になでたり、返事も聞かずに何度も好きだと言ってみたり。 「ん……、これ、わがままなんですか?」 「そう。礼央がどうして欲しいかなんてこれっぽっちも考えないで、自分がしたいことをしてるだけ」  礼央は、少し口をとがらせた。 「でも結局、俺がして欲しいことばっかりしてくる」 「こうされたかったの?」 「はい。体中いっぱい触って欲しかったです」 「可愛い」  リラックスしたのか、うつらうつらし始めた礼央に、睡眠の邪魔かなと思いながら、邪魔でもいいやと開き直って、何度もキスをした。 (了)

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