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俺が家庭教師のバイトを選んだ理由はふたつある。
ひとつは、単純に大学のネームバリューで良い時給がもらえること。
そしてもうひとつは、無垢な少年を思い通りにしてみたいという願望があったからだ。
「んー、なるほど。誠 くんは暗記が苦手なんだね?」
「はい。頭に入るのも時間かかるし、すぐ忘れたりごっちゃになっちゃいます」
無料体験授業の、高校1年生。
色白で小柄で、少し人見知りの……要するに、タイプど真ん中だった。
うまく手に入れば、調教のしがいがありそうだと思う。
「人の記憶というのは、ただ覚えようとするよりも、五感を使った方が定着しやすいと言われているね」
「えっと、五感って、見るとか聞くとかですよね?」
「そう。簡単なことで言うと、ただじっと見て覚えるよりは、音読した方が、口で話してさらにその声が耳からも入るから、効果的だったりする。そういうのは試したことある?」
「ないです」
「じゃあ、ちょっとやってみようか」
最初は、先生として信頼を得ること。
思い通りにする初歩中の初歩だ。
「いまから1分で、このプリントの英単語をできるだけ覚えて欲しいんだけど、まずは、いままで通りのやり方でやってみてくれる?」
「はい。ノートとペンは使ってもいいですか?」
「うん、いつも通りでやってみて」
よーいドンと合図して、少し離れたところから、学習机に向かう誠を眺める。
いつか、この白いうなじが羞恥で真っ赤に染まるところを想像して、身震いした。
「……はい。じゃあ、1分休憩して、その後テストするね」
さりげない雑談で、無意識程度に暗記したものを混同するよう、差し向ける。
そしてテストをすると、60点といったところだった。
はっきり言って、出来は悪い。しかし。
「うん、たった1分でこれなら上出来だと思うよ」
「え、そうですか? 自信なかったんですけど」
「コツを掴めば、簡単に伸びそう。じゃあ、今度はこのプリント。部屋の中を少しうろうろしながら、音読して覚えてみて?」
誠は、素直に暗記を始めた。
これは、想像以上に早く堕ちるかも知れない。
インターバルを挟んでテストをすると、75点に上がった。
「わ、すごい! 点上がった!」
「うんうん、やっぱり思った通りだ。苦手だったわけじゃなくて、やり方の問題だね」
もちろん、難易度は若干下げてある。
無邪気に喜ぶ笑顔を見て、ゾクゾクした。
「先生は他の科目のコツとかも知ってるんですか?」
「まあ、そうだね。いまざっと見させてもらった中でいくつか気づいたこともあるから、誠くんがどうやったら成績が上がるかも、ある程度予想はついているよ」
「え、すごい。さすが三橋大って感じです。憧れるなあ」
「大学は関係ないよ。勉強は、楽しむことと、何をどう学んでいくのかが大事だから」
キラキラとした眼差しを見て、信奉させる準備には成功したと確信する。
1時間たっぷり使って優しい家庭教師を演じ、母親も交えて話した結果、正式に契約となった。
「頑張っていこうね」
「はいっ、よろしくお願いします」
あどけないこの少年が快楽に溺れるところを想像すると、たまらない。
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