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はじまり
「蜜(みつ)、今日何か違う?」
それは、俺――相瀬 蜜(あいせ みつ)の誕生日の次の日。
学校行こーぜー、と俺の部屋まで来た須賀谷 千歳(すがや ちとせ)から発せられた一言。
千歳は変化に気づいてくれるいい男だ。女の子は嬉しいよね、こういうの。
まぁここ、半寮制の、しかも男子校だから、モテスキルも宝の持ち腐れってか…いや、そんなこともないこともないけど。
「え、何か違う?」
対するこの男、藤棚 百騎(ふじだな ももき)は鈍い。鈍いぞ。
「シャンプー? シャンプー変えた?」
「百、絶対てきとーに言ってるでしょ」
俺が嫌そうな顔をすると、百は笑う。
「だってよく分かんなくて! とりあえず今日も可愛いな!」
「俺が可愛いのは毎日鏡見てるから知ってるよ」
うわ、何こいつ。って今思った?
俺もこれを言ったのが俺じゃなかったら思うよ。何だこいつ、って。
でも俺、事実可愛いもん。
ってゆぅか、周りから天使のようだって褒めそやされるんだから嫌でも自覚しちゃうよねー。嫌じゃないけど。
こんな美人に生んでくれた母さんには感謝しかない。
「あ、分かった。指輪だ」
「指輪ぁ?」
千歳の声に、百が俺の手に視線を移す。
「あ、ほんとだ。カッコいいじゃん、それ。でも蜜の趣味と違うな」
不思議そうな百の声。
まぁそうだよね。
「先輩?」
「うん、そう」
「あぁ、誕生日かぁ」
千歳の質問に俺が頷くと、百は『なるほどぉ~』とばかりに頷いた。
「そっか。昨日 先輩と出かけてたもんな。どこ行ってきたん?」
「んーっと、映画観てー、ごはん食べてー、ちょっと買い物してー、カフェ寄って帰ってきた」
「んで、それ貰ったのか」
「うん」
俺は百に頷きながら、左手を持ち上げて見る。
中指にはまった、黒いステンレスのリング。その表面には、波の模様が刻まれている。
いわゆるハワイアンジュエリーで、ハワイアンジュエリーは別に嫌いじゃないし、先輩――香月(かづき)さんから貰ったものだし、嬉しいは嬉しい。
けど。
…黒じゃない方がよかったなぁ、なんて、言えない。
だって香月さんが俺のために選んでくれたものだから。こういうのは、気持ちが大事なんだし。
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