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第26話

「何だと?」 「蜜の態度で何も察せない?」 「っ、」 俺は香月さんを視界に入れてないからどんな表情してるとかは分からないけど、気配とか空気は何となく分かる。 多分今はちょっと悔しそうな困惑したような…そんな感じだと思う。 百の制服の裾を引っ張って、帰ろうと促す。 百はそれを正確に理解したし、千歳も堂々と香月さんを押し退けて俺の隣へ。 「っ、蜜」 ちょっと焦りの滲んだ声。 それにも俺は何も反応しなかったし、目も向けなかった。 そんな俺を見るのは香月さんだけじゃなく周りも初めてだったから、ざわりと困惑したような空気が伝わってきていた。まぁ、伝わってきたのは困惑だけじゃなかったけど。 「おい!」 伸びてきた手は百が叩き落としてくれる。それが分かってたから、俺はただ足を進めた。 香月、蜜ちゃん怒らせたんじゃねぇの? なんて声がひそひそと聞こえて、まぁそうなんだよねぇ、と心の中でひとりごちる。 ってゆぅか、俺に向かって『おい』とかよく言えたよね。何様? 自分が上だと思ってるんだ、香月さんは。 「ねぇ、百」 「どうした?」 百の腕に自分のをするりと絡める。 「今ねぇ、すごく気分悪い」 千歳と百が俺を見る。 千歳の指が無言で俺の髪を滑った。 百も何も言わずに俺の頬を撫でて、千歳と目を合わせる。 何かこう、ピリッとした空気が流れた気がした。 気がしただけだけどね。 「…蜜…?」 俺ってばとっても健気でいいこだから、香月さんの前では千歳と百にくっつくの遠慮してたんだよねー。 だから、俺がふたりに甘えるのも、ふたりが俺の髪や肌に当たり前に触れるのも、香月さんは初めて目にしている。 それゆえの困惑が、さっきよりはっきりと伝わってきた。 香月さんに対して顔どころか視線も向けない、全く関心を示さない俺に、周りのざわざわが大きくなる。 香月何かやらかしたんじゃん?なんて笑い混じりの声や、何かあったのかな…、って純粋に心配する声。明日蜜ちゃんに告白したらOKもらえんじゃねぇかな…、なんてのも聞こえてきたけど…残念、明日すぐは無理かな。 そんなに軽くないし安くもないからね、俺は。 「ねぇ、千歳」 千歳を呼ぶと、髪に指が絡まる。 「千歳、俺の髪好きだね」 「手触り良いからな」 「ふふん。でしょ?」 うん、いい気分。 「俺が『いらない』って言ったら、どうなるの?」 何を、とは言わなくても、伝わる。 千歳が俺を見た。

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