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第28話

俺の声に、香月さんが口を噤む。 香月さんの前では出したことのないような、ピシャリと叩きつけるような声。 俺が一番許せないのって、恋人とか奥さんを『お前』って呼ぶ男。自分が呼ばれたら絶対許さない。 それに、自分の周りの人も『お前』って呼んでほしくないんだよね。それは俺の個人的な価値観だし、平気な人もいるんだろうけど。 それでも俺は、『お前』って呼ばれるのだけは絶対に嫌。 俺は香月さんを見た。 いつもみたいな甘さも熱もない、むしろ冷たく尖った俺の視線に、香月さんは初めて狼狽えたような表情を浮かべた。 「『お前』って呼ばれるの一番許せないの。そんな人大嫌いだし、いらない」 それだけ言えばもうじゅーぶん。 帰ろ。 そんな思いは言わなくても通じるから、百も千歳も、香月さんから視線を外してまた歩き始めた。 あ、購買寄らなきゃー。 「百、購買購買」 「覚えてるって」 穏やかに笑った百が、俺の頬をなぞるように指を滑らせる。 「千歳は俺の髪が好きだけど、百は肌が好きだよね」 「蜜だって触られんの好きじゃん」 「百の触り方はちょっとえっちだから好き~」 「何だそりゃ」 後ろから痛いくらいビッシビッシ視線が突き刺さってたけど、それももうどうでもいい。 「他の男に触られたら嫌がるのにな」 千歳のからかうような声はわざとだって知ってる。 「だって百と千歳じゃないもん。それに、好きじゃなきゃ気持ち悪いだけだもん」 だからね、さっきまでは平気だったけど、今はもう気持ち悪いって感じちゃうかもね、香月さんのこと。 千歳が俺の髪に触れる。 ゆっくり梳くように撫でられながら、結局自分を隠したままじゃ付き合っていかれないよな、って思っていた。 相手の作り上げた俺と現実の俺のギャップ?っていうの? いくら好きでも相手に合わせるのってしんどいしめんどくさいもん。 次は最初から自分を出していこう。 まーでも、しばらく彼氏とかいいかもなぁ。 甘やかしてくれる人がふたりもいるし。 んでもふたりにそれぞれ彼女だか彼氏だかが出来ないわけじゃないだろうから…そしたらやっぱり淋しくなるし、ほしくなるかなぁ、彼氏。 百たちも、今すぐ彼女とか彼氏ができるって感じじゃないけど、まぁ何せふたりとも美形と男前だから。 それも時間の問題だよね。 …千歳と百が選ぶ相手って、ちょっと興味あるな。 キレイ系とか可愛い系とか、色々系統はあるけど…どんな感じが好きなのかな。

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