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第79話
ワガママ全部聞いてくれて、優しく甘やかしてくれる人なんて…存在する?
いたらいいなー、とは思うけど、みんなそういうのほぼ諦めてるでしょ? しょせん幻想、とか言って。
あ、でも俺はふたりに甘やかされてるからな。
彼氏じゃないけど。
「だってあの人、自分が甘えるってか言うこと聞かせたいタイプじゃん。人のワガママ聞くなんて無理じゃね?」
「ワガママぜ~んぶ聞いてほしいのっ。って言ってみたらどうだ?」
「今の蜜の真似 似てるな」
千歳って俺のモノマネできたんだね。や、それはどうでもいいんだ。
「実際自分じゃ聞けない、って自分で気づかないと諦めないだろ、あの人は」
「うんまぁ…確かにね」
ほんとは出来るならもう顔を合わせたくはないけど、そうもいかない。
あんなしつこくされるのは嫌だから。
だから、明日でちゃんと最後にしたいんだよ。
俺も香月さんも、どっちもお互いじゃダメってこと。
それに、香月さんじゃなくて俺も変わらないとだし。そんなすぐには無理だけど、ね。
「今までどんなことしてほしかったとかねぇの?」
「んー色々あるけど」
「あるなら全部ぶつけてみ?」
「全部かぁ…」
まぁ、ほんとに最後だしな。
「結局さぁ、何でも小出しにしてかなきゃダメだよね。だって言われた方だって、じゃあその時言ってくれればよかったのに、って思うことあるし。それは反省として次回に生かすけど」
「けどそれも好かれたくてやってたことだろ? あの人が求める蜜に合わせて」
「小出しにした方がいいのは確かだけど、それが出来る状態だったかどうか、っていうのも重要だからな」
「うん…」
こてりとテーブルに額をつける。
左右から大きな手が優しく髪を撫でてくれるのをそのままに、目を閉じる。
何も考えないで寝ちゃいたい。もういっそ寝ちゃうか。
「…ちとせー」
「どうした?」
「寝よう」
「…まだ9時半だぞ」
「何も考えないで寝たい」
「女王様が睡眠ご所望ならいいんじゃん? 片付け俺がしとくし」
「…仕方ないな」
千歳に抱き上げられてまずは洗面所で歯磨き。そしてそのままベッドに運ばれる。
この後エッチなことは一切ありません。
布団をかけた千歳が、俺の額にキスを落とす。
「百はー?」
「はいはい、まったくワガママ女王様だな」
「そんな俺が好きなくせに」
「違いねぇ」
百からもキスをもらって目を閉じる。
色々疲れてたのか何なのか、意識を手離したのは思いの外早かった。
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