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第80話

目が覚めたら、俺は百に後ろから抱え込まれるような体勢でベッドに転がっていた。 「千歳は?」 「んー…顔洗いに行ってる」 百の声はまだ眠そう。 「起きる?」 「あと5分…」 「じゃあ俺もあと5分」 慣れてる体温だから心地いい。もうちょっと、と思って目を閉じる。 と、ドアが開いて千歳の声が降ってきた。 「おいこら、ふたりとも起きろ」 「やーだー」 「けちー」 「やだくないしケチでもない」 布団はぎとられた。ひどい。 「百ー、千歳がいじめるよぉ」 「可哀想に…」 体を反転させて百に抱きつくと背中をぽんぽんされる。 「可哀想なの俺だからな。俺のベッドなのに蜜と百に押し出されたからな」 「え、うそ。ごめん」 「マジか。悪かった」 ダブルベッドに3人おさまったらそうなるか。なるね。ごめんね。 よく3人おさまってたと思うもん。いくら俺が小柄だとはいえ。 「クイーンベッド買う?」 「クイーンって部屋のドア入るのかな?」 「特別にダブルベッド入れさせてもらってるんだぞ。無理だろ」 「無理かー」 「広いベッドで寝たいなら百ん家 遊びに行かないと無理だな」 「百のベッド超広いよね。キングベッド初めて見たもん」 「あれ最高だよな」 「ねー」 持ち主以上に俺たちがベッド気に入ってるっていう。 「俺あのベッドで1人で寝るときも何でか端寄っちゃうんだよな」 「呼んでよ。すぐ行くから」 「右に同じ」 百くん家お邪魔しすぎ!って母さんに言われるけどね。 「それはそれとして、今日は朝から中矢先輩と約束してるだろ。ちゃっちゃと着替えて食堂行くぞ」 「はぁい」 そうだよ。昨日みたいに待ち伏せされるより先に出ないと。 制服に着替えると、そのまま食堂に直行。 本当はもうちょっとゆっくりしていたいんだけど、今日だけは。 食事を済ませると諸々の準備をちゃっと済ませてちゃっと寮を出た。 中矢先輩は図書室に来てくれればいいって言ってたんだよね、確か。割と早い時間に出ちゃったけど、開いてなかったら待てばいいし、開いてたらそれはそれでラッキーだし。 部活があるから、学校の門は既に開いていた。 運動部の掛け声とか、吹奏楽部の楽器の音とか、普段もうちょっと遅く来るし帰るのも早いし、部活の音って何か新鮮。 そんな気分で靴を履き替えると、迷わず図書室へ向かった。

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