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第81話
図書室はもう開いていて、中には自習スペースで勉強する人の姿もちらほら。
すごいなぁ。
中矢先輩はちょっと眠そうな顔でカウンターに座っていて、俺と目が合うとひらりと手を振った。
「おはようございます、先輩」
「おはよー」
「時間もらっちゃってすみません」
「全然。朝は貸し出しとかなくって暇だし」
こっちおいで、と、図書準備室へ入れてもらう。
会議用テーブルと数脚の椅子しかないその部屋は殺風景だった。あんまり使われてない感じ。
「香月のことだよね?」
よいしょと椅子を引きながら口を開いた先輩に、そうですねと返しながら俺たちも椅子を引く。
「話聞いてると自業自得ってとこもあるんだけどさ、あいつ。けど、このまま別れたくないくらいには蜜ちゃんに未練あんだよね」
「俺はすっぱり別れたいんです」
中矢先輩は苦笑い。
「蜜ちゃんさぁ、俺らから見ても『いいこ』だったから、きっと香月に言えてないこと結構あるだろうな、って思ってて。香月には、蜜ちゃんに求めてばっかいないで、喜ぶようなことしてあげなよ、って言ってたんだけどさ」
出来てなかったよね、って言いながら俺を見る中矢先輩の目は、ほんの少しだけ淋しそうな色を浮かべていた。
「俺の言うことだけ聞いてればいい、って、口には出さないけど多分そういうタイプじゃん? そりゃいつか蜜ちゃんには愛想つかされるよな、って忍足とは話してた。…香月には内緒な?」
「…まぁ、話す機会もないですから。そこは大丈夫です」
なんだ。そうだったんだ。
近くにいる人から見ても、香月さんってそうだったんだ。
「…納得できないって言われても、何かそれは勝手だよな、ってどうしても思っちゃうんです。最後まで自分を通そうとするんだ、って」
「…うん。分かるよ」
「だから余計に腹が立って冷静になれないの」
「うん」
「けど…これ以上しつこくされるの嫌だし、ほんとにきっぱり最後にしたいんです。例えば俺が、それなら最後にちゃんと話そう、ってしたとして、香月さんは納得するのかな、とか…」
「うーん…一方的に避けられるよりはいいかもしれないけど…修復できる!って思わせたらダメだからなぁ…」
「別れたいからちゃんと話そう、ってしたらどうですか?」
「うーん…」
先輩は腕を組んだまま宙を見た。
これも難しい感じ?
「その…前提がまず、香月は受け入れてないと言うか…」
どこまで勝手なの、あの人。
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