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第82話

「それ、納得できるとか以前の問題じゃないですか?」 「うん…そうだね…」 「勝手すぎない?」 「そ…うだね…?」 先輩に怒っても意味ないのは分かってる。 そんなんされて先輩が困っちゃうのも分かってる。 でも! 何っだそれ!! 「話するだけムダじゃん」 百、それを言ったらおしまいよ。 俺も思ったけど。 「そ、うなんだけどさー…」 中矢先輩の目がキョロキョロと動く。 「けど、しないよりマシって言うか…」 「じゃあ先輩、今日の放課後 香月さんに時間作って、って伝えてください」 いいよもう。千歳の言う通り、かぐや姫になってやる。 燕の子安貝持ってこい! 蓬莱の玉の枝も、火鼠の皮衣も、竜の首の玉も、仏の御石の鉢も全部持ってこい!! 「蜜ちゃん…」 「会うのはこれが最後。納得なんてはなからしないんなら話すだけムダだけど、いつまでも『あの人の』だと思われてるのも嫌ですから」 先輩はちょっと黙って俺を見た。 それから小さく息を吐き出す。 「…分かったよ。けど、ふたりで話すの?」 「念のため俺たちがそばにいます。一応、見えないとこで」 「うん。それがいいよ」 千歳の言葉に中矢先輩は頷いた。 「思えばさぁ、藤棚くんは最初から香月のこと嫌ってたよね」 「あー、そうですね」 「蜜ちゃん今度は藤棚くんに見定めてもらうのもいいかもよ?」 「なるほど」 それはアリだな。 付き合ってる時はもちろんなんだけど、付き合うことになった時、百は『蜜がいいならいいけどあんまり賛成はしない』ってスタンスだったな、そう言えば。 うーん…結局俺も、ちょっと舞い上がってたんだろうな。反省。 「先輩」 「ん?」 「時間作ってくれてありがとうございました」 「ううん。何か…ごめんね」 「先輩に謝ってもらうようなことされてませんから」 むしろ巻き込んでしまった。 巻き込まれてくれる先輩はいい人だ。 放課後。ちょっと気分は重いけど…これをしないとちゃんと終われないなら、するしかない。 「あのさ、蜜ちゃん」 「?」 「香月はあんな…だけど、でも何て言うか…蜜ちゃんのことは、ほんとに好きなんだと思う」 「……。俺も、ほんとに好きでしたよ。ただ、もうムリだな、って思っただけ」 「そっか…」 多分、もう少し早かったらもしかしたらやり直………いや無理だな。だって俺も香月さんも性格は変わらないもん。 ただおとなしく笑ってるだけ、なんて…やっぱり俺は耐えられなかったよね。

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