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第157話

「これが『友達の衛宮くん』の本性だよ」 俺は自分が浅い呼吸をしてることに気づいた。 知らない。こんな衛宮は、知らない。 「付き合うまでは優しく…はないけど、ちょっと下手に出て、押しの一手で彼氏の座に収まる。そこからはもうモラハラみたいな?」 優雅な手つきでポテトを摘まむ茅ヶ崎は、何てことないように続けた。 「って言ってもねぇ、僕らも知ったの最近なんだよねぇ~」 ぽいっと口にポテトを放り込み、咀嚼する。 「どんなやつかな~?って気になってぇ~、ちょーっと身辺洗い出してみたんだよねぇ」 ちょっと身辺洗い出すのは普通の高校生がすることじゃない気がするんだけど…。 あ、でも女王様のクラスって、藤棚くんもそうだけど企業の社長子息が多いんだよな…、確か。 そしたらそういう伝手からできなくもない、のか…? 「俺がモラハラとかおかしくね? っつうかさぁ、洗い出すとか、プライバシーの侵害だよな。柳木、こんなのとつるむのやめろよ。相瀬にも言うわ、お前がしたこと」 「べっつに~、好きにすればぁ~?」 「どうせ須賀谷や藤棚とかも一枚噛んでるんだろ? それも相瀬に言って、引き離しゃいいもんな」 「だぁ~かぁ~らぁ~。好きにすればぁ~? って言ってるじゃぁ~ん」 いくら付き合ってるって言っても、女王様は衛宮のことをしっかり好きにはなってない。それを負い目に感じてるところもあるだろうけど、それでも女王様が信じるのは、間違いなく衛宮じゃなくて藤棚くんや須賀谷くんだ。 衛宮はそれが分かってないの? 「じゃあ好きにするわ。行こうぜ、柳木」 衛宮が俺の腕を掴んで立ち上がる。 俺は咄嗟に茅ヶ崎と視線を合わせた。 茅ヶ崎はうっすら笑って頷いた。 「…茅ヶ崎、また明日」 「おい柳木、明日なんかねぇから」 「まったねぇ~、柳木くん」 「お前うるせぇよ」 引きずられるようにして店を出た。 そのまま衛宮は駅へと向かう。 駅に着くと、衛宮はホームじゃなくて男性トイレへ俺を引きずっていった。 「…衛宮?」 個室に押し込まれ、鍵をかけられる。 え、何これ。ここでエロ同人みたいな何かが……いや、あるわけないけど。 「…柳木さぁ」 衛宮が俺を見た。ひどく冷めた、濁った目で。 「お前さっき知ったこと、相瀬に言うなよ」 「衛宮…あのさ、ぅぐ…ッ」 「言うなって。分かったか?」 衛宮の手が、ぐうっと首を締め付ける。 「何にも知らない振りしとけ。今日のだって俺は腹立ってんだからな。生意気なこと言いやがって。柳木のくせに」

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