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コール2回でつながった。
「あの……さっきはごめんなさい」
おそるおそる謝ると、春馬さんはちょっと困ったような感じで言った。
『いや、謝ることないよ。僕が軽率に誘ったのが悪いんだし』
「そんなことないです。あの、俺ほんとに、春馬さんと話したかったんで。さっきは、知ってる人に思いっきり趣味を晒していたことが恥ずかしすぎて逃げちゃったんですけど、家に帰ってよくよく考えたら、これっきりでもう春馬さんとBL話できないのは嫌だなって思ったんです」
春馬さんは少し黙ったあと、つぶやくようにぽつっと言った。
『僕もそう思うよ。なんだかんだ、毎晩電話するのを楽しみに仕事がんばってたからね』
やばい……キュンとさせに来てる。
いや、そんなわけないんだけど。
ぶるぶると頭を振り、気を取り直して話に戻る。
「あの、会うのは無理でも、いままでどおりLINEしたり電話したり、してくれませんか?」
『そうしたいのはやまやまなんだけど、やっぱり倫理上まずいかなって思ってて。知らないフリをしていればいいっていうものでもないし』
そう言ったあと、急に春馬さんが、ふはっと笑った。
「どうしたんですか?」
『……いや。自分で言ってておかしいなって。このやりとりがトーク履歴に残るのが嫌で、電話してるのにね』
「え、それって……」
『僕たちはまだ会ったことがない、ということにできる道を残したつもり』
え、え、え。それは、期待していいのか?
普通にいままでどおりにしてくれる、ということ?
「じゃあ、これからも連絡取るのは……」
『ネット友達としてなら』
マジか! 奇跡の大逆転。
「ありがとうございますっ。よかった。なんか、また孤独な趣味になっちゃうのかなって思ってたので」
『僕も、生きがいを失わずに済みそう』
「大袈裟ですよ」
……と笑ったところで気付いた。
待って、『生きがい』って何? どこにかかってんの?
BLにかかってんの? 俺との電話にかかってんの?
この人いま、俺との電話が生きがいって言ったの?
激甚に萌えダメージを喰らいながら、ヘラヘラと作り笑いをする。
春馬さんは、ちょびっとだけ黙ってから言った。
「それにしても……なんか、意外だよ。高野くんが腐男子だなんて。全然見えない」
「あー。俺、一般人にステルスしてるんですよね。見た目気遣ったり、流行りのゲームやったり、音楽聴いたり。全部、快適なBLライフを送るためなんですけど」
なるほどね、と、納得したように答える。
しかし、そう言う春馬さんだって、漫画なんておよそ無縁そうな見た目だ。
と言っても、俺とは真逆で、ニコリともしない彼は、なんにも興味がなさそうに見えるのだ。
ファッション雑誌とか1回も見たことがなさそうだし、ゲームもしなさそうだし、BLなんてもってのほか。
ずっと難しい本を読んでそう。
まあ、そのギャップが最高に萌えるんだけど。
「学校では切り離して考えるようにします」
『うん、そうしてくれるとうれしい』
この人は春馬さん。
俺のネット友達は、春馬さん。
川上先生? 話したこともないし、とっつきにくくて、よく知らない人だな。
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