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 最悪な気分で家に帰った。  汗びっしょりなのは、暑かったからってわけじゃない。  自室に入りボディバッグを床に放り投げて、ベッドへうつ伏せにダイブした。  あー、もう。なんでよりによって、自分の学校の教師なんだよ。  電子の海でそんな偶然起こすとか、どんな奇跡だ。  夏休み前に運を使い果たした気がする。  最悪。最悪すぎる。  ごろっと寝返りを打ったところで、ふっと気付いた。  なぜ春馬さんの声が眠たかったのか。  俺、生物の時間いつもめっちゃ眠い……。 「うわああああっ!」  恥ずかしすぎて、思わず大声を上げる。  月曜からどんな顔して授業受ければいいんだよ。  俺だって気まずいし向こうだって気まずい。  なんで会っちゃったんだ、本気でバカだ。  ゴロゴロと布団の上を転がりながら、目を閉じる。  すると、もわっと浮かんだ。  まじめそのものの川上先生が、家に帰るとひとりで、黙々とBL漫画を読んでいる。  感想をちまちまとスマホに入力して、ツイートする。  さらにちまちま入力して、俺にLINEを送る。  先生らしいロジカルな考察で、ふたりの心の機微や世界観、舞台設定について淡々と語る。  そして寝る前には俺に電話をして、何が面白かったどれが読みたいと、あれこれ報告して…… 「え? 可愛くない?」  思わず、天井に問いかけてしまった。  あの、表情筋の動きゼロの川上先生が、BLを読んでじんわり感動してたり、『会うのが楽しみで眠れない』とか言ってたり、その他いままでの尊い発言を全部総合すると…… 「いや、可愛いよね?」  待って、500%可愛い。  春馬さんが重視しているのは、萌えとかエロよりも、ストーリーの巧みさやキャラの人生観だったり。  掘り出し物を見つけると、宝箱を見つけたような気持ちになる、なんて言っていた。  ちょっとはにかんで言っていた。  うん、可愛い。  自分が、とことんギャップ萌えに弱いことを思い出した。  ばっと起き上がり、スマホを掴んで、春馬さんとのトーク履歴をさかのぼる。  すると、出るわ出るわのキュン発言オンパレード。  それが全部あの川上先生の無表情から出ていると想像すると、自分が数々晒した恥ずかしい発言やら性癖がチャラになるくらい、萌える。  もしかしたらブロックされてるかも、とは思いつつ、ひとこと書いてみた。 [会うのは無理でも、こうやって連絡取るのはできますか?]  ほどなくして、返事が返ってくる。 [無理です]  無理と言いつつ律儀に返事してくる。  あと敬語。可愛い。 [サイン本、買えましたか?] [いま買ったところです]  返事きた。可愛い。 [BL棚、偵察できました?] [見たけど、本当に見ただけ。レジもすごい恥ずかしくて、2度とリアル本屋では買わないことにしました]  ちょっと考えたあと、勢いのままに入力し、こう送った。 [春馬さん。俺、話せなくなるの寂しいです。春馬さんはどうですか?]  返事がない。と思ったら、ぷかっと吹き出しが増えた。 [電話してもいい?]  指が勝手に、通話をボタンを押していた。

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