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その晩俺は、夢を見た。
春馬さんと一緒に、どこかの部屋で、BL漫画を読んでいる夢だ。
ソファに並んで腰掛けて、肩同士がちょっとぶつかっていて、それを気にしながら読んでいる。
春馬さんの方をちらっと見ると、真剣に読んでいる横顔に見惚れてしまう。
気づいた春馬さんが、顔を上げ、笑って首をかしげる。
俺が慌ててごまかそうとすると、春馬さんは俺の漫画を奪ってそのまま手首を掴んで……
ばっと飛び起きた。
なんて夢だ。
背中に変な汗をかいていて、冷房が当たるとひんやりして、不快だ。
スマホを手に取ると時刻は2:00すぎで、春馬さんはいまごろ、すやすや寝てるんだろうなと思う。
切れ長の涼しげな奥二重。まっすぐな鼻筋。
赤いくちびる。何もしていない地味な黒髪。
触れられたらどんなにいいだろうか、と思う。
春馬さんは俺と会って友達になりたいのかも知れないけど、俺は違う。
会ったら、それ以上のことを求めてしまう。
こんなバカみたいな夢を見る程度には。
はあっとため息をついて、のろのろと起き上がった。
机の上に開きっぱなしの、生物の宿題を見る。
この宿題は川上先生が作ったもので、俺はその宿題をやる立場だ。
そして川上先生が丸をつけて、俺は先生がつけた成績を見て……たぶん自分のできなさに落胆するけど。
友達にはなれない。片思いが成就することもない。
密かに萌え散らかして、春馬さんのことを考えながらひとりでして、終わらせるのがいい。
春馬さんとのトーク画面を開くと、1番下に『送信を取り消しました』とあった。
「……春馬さん?」
思わずつぶやく。なんだろう、何を書いたんだろう。
気になりつつ1階のリビングへ降りて、水を飲む。
再びふらふらと自室に戻ると、やけ気味にズボンを脱いで、しごき始めた。
「……、……っ」
息を殺して、眉間にしわを寄せながら、1度抜いてしまえば下手な考えはどこかへ飛んでいくかと思って。
そう思うのに、目に浮かぶのは、春馬さんが俺の頬のあたりに手を伸ばしているところ。
それから、川上先生が俺の頭をなでようとしているところ。
「っ、……ッ……!……っ!……」
息を詰めて達して、ぼとぼとと精液を床にこぼした。
「……、はぁ、はぁ……、はぁ……」
呼吸を整えてぺたっと床に座り込むと、涙の粒がぽつぽつと落ちてきた。
何かがちょっとでもズレていれば、違ったのに。
中3の俺が、中野北高校を選ばなければ。
川上先生の赴任先が、中野北高校じゃなければ。
俺が生まれるのが2年くらいズレていれば。
春馬さんが……。
止まらない鼻水をすすって、ティッシュで床を拭く。
虚しいし、辛い。
春馬さんは俺に何を送ったんだろう。
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