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 悶々としながらお風呂に入り、緊張気味にLINEを送った。  電話がかかってくる。 「も、しもし」 『こんばんは。お疲れさま』 「体調平気ですか?」 『うん、ようやく調子が戻ってきたところ。せっかくの日曜日だったのに、もったいないことしちゃった』  春馬さんにとって休日とは、心ゆくまで腐男子活動ができるときなのだ。 「きょうは何か読みました?」 『うん。たまにはむかし気に入ってた作品を読もうかなと思って、色々見てた』 「たとえば?」 『放課後は独り占め』 「ゴホッ!」  思わずむせた。  いや、『放課後は独り占め』って……いま最も読んじゃダメな作品では?  なぜダメかというと、俺たちと状況が似すぎているのだ。  ネットで知り合った友達に会いに行ってみたら、まさかの先生。  そして秘密の関係が始まる。  ……その後ふたりはすぐヤっちゃうので、そこは俺たちとは全然違うけど。 『大丈夫?』 「ゴホ……すいません。完全に動揺しました」  正直に言ったら、春馬さんは控えめにクスクスと笑った。 『攻めのモラルのなさが好きなんだよね。BLをBLたらしめている感じ』 「あー、言いたいことは分かります。でも、じゃあ完全にファンタジーエロかって言ったら、案外そうでもないんですよね」 『そうそう。行動に一貫性もあるし、さほど現実離れもしていない。ただ、こんな人が職員室にいたら困っちゃうなとは思うけど』  あとで読もう。  ていうか、先生×生徒ものを総おさらいして、行き場のない萌えを消化しよう。  そう心の中で決意していたら、春馬さんが、まじめな声で言った。 『高野くん。あのね、僕、真剣に考えたんだけど。やっぱり会えないかな?』 「えっ?」 『人生は1回しかないのに、思った通りにしないなんてもったいないなって思って。本当に、仕事辞めてもいいかなと思う』  いや、え? その発言は別に萌えないです。  普通にやばいでしょ。 「春馬さん、先生は辞めないでください」 『うーん、でも、気の合う友達ができる方が僕の人生にとって重要』  どうしたらこの人を止められる……?  と考えたときに、ふいっと、恭平の顔が浮かんだ。  ええい、こうなったら強硬手段だ。 「俺、川上先生に会うのだけが学校の楽しみなんです。だから先生辞めないで」 『え?』 「川上先生がいなかったら本当、学校行く意味ないです。最近俺、先生の顔見るためだけに学校行ってるんですよ」 『でも』 「俺きょう1日考えてたこと言いますから。だから先生はやめないでください」  俺は、すうっと深呼吸をして言った。 「俺も、会って話したいなって思いました。漫画のこと語り合いたいのもそうですけど、普通に春馬さんのこともっと知りたいなって思って。だからきょうは、本当は、駄々こねようと思ってたんです。きのうはあんなこと言ったけど、ほんとは会って遊びたいって。それなのに、春馬さんの方がヤケ酒飲んで仕事辞めるとか言い出すから、びっくりしちゃいました。辞めなくていいですから、内緒で普通に会ってくれませんか?」  何も返事がない。  答えをじっと待っていたら、春馬さんは、静かに切り出した。 『いや……びっくりした。そんな風に考えてくれてたなんて。ごめんね、完全に僕の片思いかなと思ってた』 「か、かた……!?」 『うん。友達になりたいと思ってるの、僕だけかなって』 「あ、友達ね、あ、はい……いや、俺だって普通になりたいですよ」  なんだいまの! 片思いって!  録音しておけばよかった……。  絶望的にイチコロにされつつ、話の続きを聞く。 『来週の土日どちらかで、池袋行こう?』 「はい。土曜がバイト休みなんで、行きましょう」  正式に、腐男子仲間ができました。  相手は生物科の先生です。  ちなみに俺は、その人のことが好きです。

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