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プロローグ
「先生、進捗どうですか?」
デスクの受話器を持つ吉村(よしむら)の耳には、溜息が聞こえて来た。
「……書けません」
二言三言会話を交わし、吉村は電話を切った。
「先生、大丈夫かな」
電話の相手は、売れっ子BL作家・あわう ほたる。
本名は粟生 蛍(あわう ほたる)だ。
吉村は、その蛍の担当編集者だった。
デビュー作からヒットを飛ばし続けている蛍が、今スランプに陥っている。
繊細な性格を考慮して、うるさく催促をすることは避けていた吉村だったが、これ以上新作を延ばすとヤバい。
今も期待の新人が、他出版社からじゃんじゃん新作を発表しているのだ。
このままでは、蛍はかすんで消えてしまう。
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