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第4話 シンビジウム
「はぁ......あ....せんせ」
先生のがゆっくり僕の中に入ってきて、僕の奥まで満たすから.......。
僕はいつも、乱れてしまう。
「普段の結也はクールビューティなのに........こうしてる結也は........ありえないくらい、エロい顔してる........」
「........やぁ.....だ.......せんせ」
「ねぇ、結也」
先生が僕の中を深くつきながら言った。
「そろそろ俺のこと、名前で呼んでくれない....?」
僕は、一瞬、固まってしまった。
え、名前......?
「ほら、呼んで......結也」
固まっている僕をこっぴどくせめながら、先生は優しく言う。
「ほら、結也」
「........ま.......まよ.........せんせ」
先生が苦笑いして、うなだれた。
だめだ、やっぱ、言えないよ......。
先生を〝真世〟って、言えないよ.......。
「チーフは恋人のこと、なんて呼んでるんですか?」
「.........いきなり、何よ」
チーフがめずらしく動揺して、頰を赤らめた。
こういう可愛い顔、するんだチーフも。
「例えば、例えばなんですけど。先輩とか上司とかと付き合うことになって、〝先輩〟とか〝チーフ〟とか呼び慣れてるのに、急に名前で呼ぶのとか、できますか?」
「うーん、つい出ちゃうかもね。そういうの。でも時間を重ねて、相手のことをより近くに感じられたら、そのうち名前で呼べるんじゃないかな?」
........的確すぎて、何も言えない。
チーフはやっぱり、すごいな。
伊達にチーフじゃない。
と、いうことは、僕はまだ先生を近くに感じられてないんだろうか......?
あんなにいつも激しく肌を重ねて愛し合うのに、まだ僕は先生のことを〝真世〟って言えないくらい、遠い距離を保っているんだろうか......?
「.....さん。幸田さん?」
お客様が僕を呼ぶ声で、ハッとしてしまった。
あちゃー、仕事中、ボーっとするなんて。
ありえない.......。
「すみません。織田様」
「元気ないみたいですけど、大丈夫ですか?」
「いえ、ご心配をおかけしました。申し訳ありません」
「誰にでも、そんなことありますから、お気になさらないでください」
織田様は小さくてかわいい。
そして、びっくりするくらい気遣いができて優しい、できた女性だ。
お相手の方いい人が滲みでるくらいいい人で、僕はこのお二人を見てるとかなり癒される。
そういえば、この二人も。
もう籍は入れているのにお互いを「畑中さん」「織田さん」と呼び合ってる。
距離とかなさそうなのに.......。
こんなに穏やかで幸せそうなのに。
見えないところで、知らないところで、距離があるんだろうか。
「このドレス、とっても気に入りました!ありがとうございます。幸田さん」
「とんでもないです。織田様にとてもお似合いです」
織田様が試着されているピンクのドレスは......これまた、僕のオススメ、小糸真世先生のドレスでシンビジウムをイメージしている。
胸元は鮮やかなイエローで、ウエストに向けてピンクに変化するグラデーション。
スカートのピンクのオーガンジーは、外向きに細かくカールしていて.......華奢で小さい織田様にぴったりなんだ。
「お写真を撮りましょうか?」
「え?」
「ご主人様に、送って差し上げませんか?このドレスをご試着された織田様の」
織田様は急に頬を赤くしてうつむいた。
「.......恥ずかしいので、大丈夫です」
「左様でございますか」
........残念。
せっかく、こんなにかわいいのに。
かわいい織田様を共有して欲しかったのになぁ。
〝恥ずかしい〟ー。
そう、顔を赤らめた織田様が少しひっかかった。
恥ずかしい、恥ずかしいのか。
そういえば、僕も先生の名前呼ぶのが、恥ずかしいのかも。
「先生、このシンビジウム、どうしたんですか?」
先生のとこにおじゃましたら、リビングにピンクの立派なシンビジウムが置かれていて、僕は思わず見入ってしまった。
「この間、真桜がきておいていったんだよ。舞台でたくさんいただいたからって」
キレイだなぁ.......。
その鮮やかなシンビジウムを眺めていると、後ろから先生がそっと腰に腕を回して抱きしめてきた。
「結也は、どの花よりきれい」
.........真世、って。
今、真世って言ったら、先生はどんな顔するかな?
今、真世って言ったら、僕は全部を先生にぶつけることができるんだろうか?
「真世.....一つ、聞いていい?」
先生........真世は、びっくりして僕を見る。
「.......いいよ、何?」
「この間、僕のことを白いバラって言ったでしょう?........桜子さんにも同じこと言われたんだ。どうして、白いバラって思ったの?」
真世は体重を僕に預けて、僕の耳元で囁いた。
「凛として目立つのに、そっと身を引いて周りを引き立てる。容姿や視線は華やかなのに、儚げで頼りなげで.........手に入れたくなる、ほっとけなくなる..........愛してやまなくなる」
「真世....」
真世は、肩ごしに唇を深く重ねた。
そして一旦唇を離すと、キツく僕を抱きしめて言ったんだ。
「やっと......やっと、名前で呼んでくれた.......結也」
壁に後ろ向きに押さえつけられる。
真世の指が僕の中に入って感じるとこを愛撫して、もう一つの手の指は僕の口の中をを愛撫する。
意識が飛んじゃいそうで、たっているのもやっとで、壁にしがみつくんだけど、壁は僕をちゃんと支えてくれなくて、手が.......壁を滑る。
「結也.......もう一度、名前、俺の名前呼んで.......その声で呼んで........」
「真世.......真世........愛してる......真世....僕を、愛して........」
もう、恥ずかしいなんて、言ってられない。
真世って僕が囁くたびに、信じられないくらい色っぽい顔をする真世が見たくて。
その顔も、その体も、全部、全部、独占したくて。
真世って、その名前まで独占したくて。
そうか.......。
織田様もそうなんだ。
恥ずかしいけど、恥ずかしいから、人前では言えないけど。
誰よりもご主人様が大好きで、誰よりもご主人様を独占したくて。
あんなにかわいくて穏やかな織田様の心の中は、誰よりも熱くて、情熱的で、この世で一番ご主人様を愛してらっしゃるんだ。
「あ......あ....んぁ、ま....よ」
真世が一気に僕を後ろから突き上げて、僕を激しく揺らすから......。
僕の体は仰け反って......。
愛しい人の名前を呼びながら.........。
僕は、ジェットコースターに乗ってるみたいに、快楽に急降下するんだ。
「お父さん、お母さん、私は隆さんと幸せになります。今まで大事に育ててくれてありがとう。大好きだよ」
織田様の結婚式当日。
織田様の感謝の手紙を聞いた僕は、久しぶりに目頭が熱くなったんだ。
ご主人様のことも名前でしっかりと言われて.......よかった。
胸にずんってくる手紙の内容が、さらに、僕の目をウルウルにするんだ。
「幸田さん、長い間ありがとうございました」
「とんでもないです。こちらこそ、とても素晴らしいお式に携われて、本当に幸せです。ありがとうございました」
織田様は目を少し潤ませて言った。
「私、幸田さんの自己紹介、一生忘れることができません。〝幸田結也と申します。幸せを結ぶなり、ってとても縁起かいいんですよ〟って。
本当に幸田さんは、私たちの幸せを結んでくださいました。本当にありがとうございます」
........この仕事をしていて、こんな嬉しいこと、初めて言われた。
織田様、反則だ。
かわいくて、気遣いができて、優しくて。
このテッペンまでのぼった嬉しい気持ちを、僕は一刻も早く愛する人に伝えたくなったんだ。
僕は、切れた息を弾ませながら、スマホを握った。
「真世!!今日、すごく嬉しいことがあったんだ!!真世に一番に伝えたい......聞いてくれる?」
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